かつて自分がプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢「アイリーン」に転生してしまった主人公が、ゲーム終盤に死亡してしまう自分の運命を回避すべく、ラスボスである魔王の元へ自ら赴きプロポーズという名の「攻略」を試みるが・・・。

所謂なろう小説で定番の悪役令嬢もの。
婚約破棄イベントで自分の「前世」を思い出して物語が始まるところも、前世での知識を活かして化粧品ビジネスやったり貴族令嬢なのにお菓子作りの腕前披露したりするところも、運命に抗うべく頑張っていたら元々の正ヒーローより素敵な男性をゲットするところも、基本的には王道の展開。
しかし王道のど真ん中を行くはずなのに段違いに面白く、Webで無料で読むのが申し訳なくなり、ついには生まれて初めてライトノベルを買ってしまった。

この作品の素晴らしさはなんといっても作者の豊かな表現力で、特に、少年漫画を読んでいるような気分にさせるほどの躍動感を感じさせるバトル描写と、登場人物の作りこみおよびその表現が巧い。
例えば主人公のアイリーンは時にヒロインとしてはやや過剰な程の行動力や強気さを発揮するが、その言動の裏には自らの運命を変えたいという強い意志や、困っている人や魔物を放っておけない正義感があることがちゃんと伝わってくる。他の人物たちも一人一人が異なる個性、魅力を持っていて、物語の中で本当に意思を持って動いているように感じさせてくれる。
そしてこの登場人物たちのリアリティが、本作品の肝、つまり前世視点ではゲームの世界だけれど今はここが「現実」であり生きるべき場所なのだ、という点に説得力をもたらし読み手を物語世界の中に没入させてくれる。

長々と語ってしまったけれど、氷室冴子先生の「なんて素敵にジャパネスク」のような、ヒロインが自らの知恵と力と行動で運命を切り拓き望んだ未来を手にしていく物語が好きな方々には全力でお勧めできる作品。

2019年4月2日

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