沖縄の小さな島に住む明青は、小さな店を営みながら犬のカフーと裏に住む巫女のおばあと静かな生活を送っていたが、島は明青の友人である俊一が進めようとしているリゾート開発の是非を巡って揺れていた。
そんな中、明青が旅先の神社で気まぐれに「嫁に来ないか」と書いた絵馬を見たという女性が、本当に明青の元にやってきた…。
「楽園のカンヴァス」が面白かったのでこちらの小説を読んでみたらビックリ、スタイリッシュでエッヂーな「楽園…」から一転、こちらは胸が締め付けられるほど穏やかで素朴で優しい小説だった。
「オリエンタリズム」ならぬ「オキナワリズム」とも呼ぶべき、誰しも多かれ少なかれ持っているであろう沖縄に対する憧憬と郷愁と先入観が少なからずこの小説の覚束ないリアリズムを助けていることは否定できない。しかしそれ以上に、登場人物たちの恋愛感情がとても活き活きと、また初々しく書かれているので、ストーリー自体はおとぎ話のようでもこの小説にリアリティを感じることができた。
沖縄の言葉や習慣を丁寧に調べ、またさりげない伏線にもキッチリと落としどころを付けてあるところもさすが原田マハという感じでぬかりない。
物語のカラクリとしてはおおむね予想していた通りだったけれど、こういうラブストーリーは、奇をてらうよりもこのくらいの予定調和感で進んだ方が最後のオープンエンディングが活きると思う。
三浦しをんの「風が強く吹いている」を読んだ時に、今年の上半期ベストは決まったと思っていたけれど、ひと月も経たないうちにこの作品が私的記録を更新してしまった。今年は良い小説に沢山巡り合えて幸せだ。
- 感想投稿日 : 2013年6月15日
- 読了日 : 2013年6月6日
- 本棚登録日 : 2013年6月6日
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