灯台守の話 (白水Uブックス175)

4.07
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本棚登録 : 238
レビュー : 30
制作 : 岸本 佐知子 
猿川西瓜さん 海外小説   読み終わった 

 タツノオトシゴが表紙でとても惹かれる。物語のなかでも重要なアイテムだ。牧師として生きたダークという物語のなかで発見した化石と進化論。神がなぜ変わり続ける世界を作ったのか。神と共に歩む生活への動揺を持ちながらも、退屈な妻と、恋に落ちた別の女(マリアの処女懐胎のように、誰の子かわからないのを身ごもった)との二重生活。物語の中のダークは、葛藤し、愛することがわからなくなり、物語をうしない、分裂し、化石を手に持ったまま、海の底へと沈んでいく。

 ダークと対をなすもう一人の主人公シルバーは、みなしごになり、灯台での生活を過ごすことになる。ピューという年齢不詳の聖霊のような存在と暮らすのだが、あるとき、文明・技術の発達によって灯台守は不要となり、追い出される。(最後にまた戻ってくるが)

 ダークが愛していない妻をボコボコにするところや性暴力の場面は非常にリアルで、斜めに傾いていた家の話をしていたころのシルバーのエピソードはどこへやらの恐さだ。6時間ほどまたせる場面なども含めて、女性陣はダークを許せないだろう。それでも牧師の妻としてふるまう嫁の姿に、悲しくなる。愛は悲しすぎるものとして、ダークの場合、表現されている。

 しばらくするとダークとシルバーが交差する。どう交差するかというと、シルバーの人生のほうがリアルになってきて、ダークがファンタジーになっていくのだ。この小説は、ダークとシルバーという二つの物語を使って、ダークはリアルからファンタジーへ、シルバーはファンタジーからリアルへと、×の形に展開させていく作りになっているように思う。
 最初は精子卵子から、斜めに傾いた家の場面でスタートしたシルバーは、最後の方では女性同士でセックスしながら携帯を充電しているという「上海ベイビー」に出てきそうな状態に。ダークは逆に、海の底に沈んでいく、なにかしら幻想的な感じになっている。

 図書館でのやりとりから、物語を追いかける展開が好きだ。身分証明書を見せてくださいなど、めちゃんこ意地悪に書かれているのがたまらん。こういう司書像は、逆に今は新鮮なのだ。それからストーリーを横取りされて、家まで追いかけてまで物語を読もうとするシルバーの精神。つまり「物語を求める心」と「理性的なもの」「進歩的なもの」は「違う」というのが書かれているのが面白かった。物語を求める、もしくは愛は、理性でも本能でもない、というのが、この本全体で書かれていることではないか。

 シルバーが突然大人の女になり、よくわからない「あなた」といちゃこらするのだが、なんかこう課長島耕作か黄昏流星群みたいになっている。
『チップ係と話しているあいだ、わたしたちはずっと手をつないでいた。人生は短く、無数の偶然であふれている。わたしたちは出会い、わたしたちは出会わず、まちがった方向に進み、それでもやっぱり偶然出会う。念入りに“正しい道”を選んで、けっきょくどこにも行き着けない。「お気の毒に」わたしは彼に言った。「これ、ありがとさん」彼はチョコレートを持ちあげてみせた。「うちのやつ、きっと喜ぶよ」

 この場面、一瞬、彼という言葉が出てくるので、あなたって男かなと思うのだが、やっぱり言葉遣いが女だ。シルバー、いつのまにかレズというか同性愛として生きてらっしゃいます。携帯電話を充電したり、同性愛のセックスとか、妙に現代的なものを書きつつも、灯台守とか、ライラの冒険みたいなファンタジー世界を織り交ぜていて、リアルとファンタジーが渾然一体となっていて、それでいて引きつけるものがある良い小説だと思う。

 最後に、この話、母親が死んでいることが大事だ。もし母親が生きていたら、この子はこんな風に振る舞えないし、ずっと傾いた家にいたままだっただろう。母が私のために犠牲になってくれた。シルバー最大の不幸にして幸運は、ここにある。

レビュー投稿日
2014年7月15日
読了日
2014年7月15日
本棚登録日
2014年7月15日
2
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