この頃のイギリス文学を読むと、人々は友情と愛情に厚く、人がちょっと怪我したり、何か事件が起こると、次々と人は「うあああああ」と号泣しぶっ倒れる印象がある。愛について語る時も、キラッキラしている。表現が全身で行われていると思う。
 アーサー・サヴィル卿の犯罪は、皮肉が聞いたホラー。手相で大騒ぎしている恋人や婦人達を馬鹿にしたように見ていたものの、いざ主人公は手相で恐ろしい予言をされる。その予言を、恋人にしてしまうことを避けるために完全犯罪を行うのだが、とうとうどうしようもなくなる。すると、手相の男がちょうど橋のところにいたので突き落とす。これでほっとしていると、このまえきゃーきゃー手相で大騒ぎしていた女たちが「あなた本当にそんなこと信じていたの? ばかじゃねーの」といって笑う。主人公は強がってかマジなのか「ええ、手相を信じたおかげでこんなハッピーエンドを得られたのですから」と言って終わり。
 カンタヴィルの幽霊も、イギリスの幽霊VSアメリカの一家で、ギャグが面白い。歴戦の幽霊もアメリカ一家の前ではまるで敵わない。でも、娘がいなくなることでアメリカの一家が焦燥してしまう場面もちゃんと書かれていて、物語としてとても良い。そしてこれも実にハッピーエンド。あと、イギリス貴族への皮肉に容赦がない。
 もっとも文学的で哀愁があったのが、秘密のないスフィンクス。名短編だと思う。謎でありたい女の、誰もいない部屋で主人公となること。素晴らしい。
 模範的億万長者はタイトルのまんまだが、これもほっこりするハッピーエンドだ。
 ワイルドの短編は、幸福な王子のときもそうだけれども、なんだか泣けて、そして幸せで、暖かい。なんていいお兄さんなんだ!と思えるのが作品から出てきている。
 ただ、秘密のないスフィンクスだけは、何か、妙なリアルというか、作者自身の影を感じさせるような、寂しいものがあった。そして、とても良かった。

2016年9月26日

読書状況 読み終わった [2016年9月26日]
カテゴリ 海外小説

 古典中の古典。名作の中の名作……というわけではないが、楽しめた。スウィフトの、子どもを食料に使う合理性と言い回しのおおざっぱさが良い。【そこで、ここにおいて提示申し上げる案を、読者諸兄にご検討いただければと思う。まず、すでに計算した十二万の子どものなかで、二万は繁殖に供すべく残す。うち男は五分の一とする(これでも羊、肉牛、豚よりは多い数である)。野蛮な者たちは結婚という制度をさして重んじておらず、これらの子供が結婚の所産であることは稀であり、したがって男一人いれば女四人に仕えるに十分であろう。そして残った十万人を、一歳になった時点で、国中の、地位も資産もある方々に向けて売りに出すのである。その際、母親にはつねに、最後の一か月はたっぷり乳を与え、上等の食卓に乗せるべくぽっちゃち太らせておくように促す。子供一体あれば、知人を招いての会食なら料理が二品できる】。この「料理が二品できる」とか適当な統計の感じがとても良い。
 それからメアリーシェリーは、本当に現代によみがえってほしい女性作家だ。不老不死の薬を発明する話……なのに、なぜか不老不死の薬の中に媚薬が入っていて、好きな人をゲットする男の話になるのである。やがてその好きな人は年老いて……それから、男が老人のふりをするのではなく、年老いたほうが女子高生みたいな真似をする醜悪な描写は秀逸だと思う。こう、不老不死に媚薬いれてくるってのがメアリーシェリーのすごいところだ。
 オスカーワイルドのしあわせな王子は絵本とかで読んだような気がするが、実際小説で読むと、もう、「ゲイも神の祝福で天国に行ける話」としか思えない。同性愛認証宗教小説……だろうか。なんだか奇妙な感じがする。泣ける話ではない。
 ジェイコブズの「猿の手」も有名な一編。でも短くしたものしか読んでいなくて、きちんとした長さのものを読むのははじめてだった。人を呪わば穴二つか。恐怖の描写が素晴らしいが、母親のほうは息子をおびえるんじゃなくて、ゾンビでも会いに行こうとしていて、必死に鍵をあけようとして、寸でのところで父親が「お願いを解除するお願い」をするという展開だったのか。
 メアの「謎」は、箱の中に次々消えていく、これまた滅茶苦茶面白いホラーで、これっておばあちゃんの記憶から消えていくことの暗示なのか、それともガチで消えていっているのか、その曖昧さが怖い。
 サキの「運命の猟犬」も、お坊ちゃんと勘違いされて村で過ごしていると、どうやら前のお坊ちゃんは村中から憎まれていて、最後は村人にぶっ殺されるという話。理不尽仕方ないのだが、それでも妙な怖さとリアリティがある。
 オーウェルの「象を撃つ」は、「よかった象が人を殺していてくれて」というオチの皮肉さが素晴らしかった。

2016年4月16日

読書状況 読み終わった [2016年4月16日]
カテゴリ 海外小説

 ラストシーンで、「初めはうまくいってたんです」というラーフの言葉は結構、心に響いた。翻訳が悪いだの、物語がつまらないなど、ディスられるレビューが多いのだが、結構楽しんで読めた。
 無人島で、少年達は、最初は一致団結して山の上で煙を焚いて自給自足の生活を営みつつ、救助を待つ。だが、そのうちグループ同士の対立ができ、「救助を待つ大義名分グループ」と、「狩猟で食料を確保できる俺達が一番偉いんだグループ」に分かれ、殺し合いがはじまる。そのきっかけが、島の一番高いところに潜むとされる謎の黒い影の動物(?)、蠅の王だ。それは人を襲う怪物だとして、子ども達に恐怖心を植え付ける。(実際は自分たちでそういう怪物を作り出して恐怖している)その恐怖の対象に立ち向かう狩猟グループ一派が、内部抗争を繰り広げ、島は滅茶苦茶になる。
 眼鏡で火をつけるのが都合良くいきすぎていたり、ツッコミどころはあるのだが、ほら貝の奪い合いとか、子ども達が救われた先に、巡洋艦と戦争が待っているとか、示唆的で面白い。ただ、ノーベル文学賞ものかどうかは少し疑問だと思った。

2015年1月11日

 タツノオトシゴが表紙でとても惹かれる。物語のなかでも重要なアイテムだ。牧師として生きたダークという物語のなかで発見した化石と進化論。神がなぜ変わり続ける世界を作ったのか。神と共に歩む生活への動揺を持ちながらも、退屈な妻と、恋に落ちた別の女(マリアの処女懐胎のように、誰の子かわからないのを身ごもった)との二重生活。物語の中のダークは、葛藤し、愛することがわからなくなり、物語をうしない、分裂し、化石を手に持ったまま、海の底へと沈んでいく。

 ダークと対をなすもう一人の主人公シルバーは、みなしごになり、灯台での生活を過ごすことになる。ピューという年齢不詳の聖霊のような存在と暮らすのだが、あるとき、文明・技術の発達によって灯台守は不要となり、追い出される。(最後にまた戻ってくるが)

 ダークが愛していない妻をボコボコにするところや性暴力の場面は非常にリアルで、斜めに傾いていた家の話をしていたころのシルバーのエピソードはどこへやらの恐さだ。6時間ほどまたせる場面なども含めて、女性陣はダークを許せないだろう。それでも牧師の妻としてふるまう嫁の姿に、悲しくなる。愛は悲しすぎるものとして、ダークの場合、表現されている。

 しばらくするとダークとシルバーが交差する。どう交差するかというと、シルバーの人生のほうがリアルになってきて、ダークがファンタジーになっていくのだ。この小説は、ダークとシルバーという二つの物語を使って、ダークはリアルからファンタジーへ、シルバーはファンタジーからリアルへと、×の形に展開させていく作りになっているように思う。
 最初は精子卵子から、斜めに傾いた家の場面でスタートしたシルバーは、最後の方では女性同士でセックスしながら携帯を充電しているという「上海ベイビー」に出てきそうな状態に。ダークは逆に、海の底に沈んでいく、なにかしら幻想的な感じになっている。

 図書館でのやりとりから、物語を追いかける展開が好きだ。身分証明書を見せてくださいなど、めちゃんこ意地悪に書かれているのがたまらん。こういう司書像は、逆に今は新鮮なのだ。それからストーリーを横取りされて、家まで追いかけてまで物語を読もうとするシルバーの精神。つまり「物語を求める心」と「理性的なもの」「進歩的なもの」は「違う」というのが書かれているのが面白かった。物語を求める、もしくは愛は、理性でも本能でもない、というのが、この本全体で書かれていることではないか。

 シルバーが突然大人の女になり、よくわからない「あなた」といちゃこらするのだが、なんかこう課長島耕作か黄昏流星群みたいになっている。
『チップ係と話しているあいだ、わたしたちはずっと手をつないでいた。人生は短く、無数の偶然であふれている。わたしたちは出会い、わたしたちは出会わず、まちがった方向に進み、それでもやっぱり偶然出会う。念入りに“正しい道”を選んで、けっきょくどこにも行き着けない。「お気の毒に」わたしは彼に言った。「これ、ありがとさん」彼はチョコレートを持ちあげてみせた。「うちのやつ、きっと喜ぶよ」

 この場面、一瞬、彼という言葉が出てくるので、あなたって男かなと思うのだが、やっぱり言葉遣いが女だ。シルバー、いつのまにかレズというか同性愛として生きてらっしゃいます。携帯電話を充電したり、同性愛のセックスとか、妙に現代的なものを書きつつも、灯台守とか、ライラの冒険みたいなファンタジー世界を織り交ぜていて、リアルとファンタジーが渾然一体となっていて、それでいて引きつけるものがある良い小説だと思う。

 最後に、この話、母親が死んでいることが大事だ。もし母親が生きていたら、この子はこんな風に振る舞えないし、ずっと傾いた家にいたままだっただろう。母が私のために犠牲になってくれた。シル...

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2014年7月15日

ネタバレ
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