東京・代々木の国立競技場。マラソンゲートの入り口付近にひとつの
石碑がある。「学徒出陣壮行の地」との揮毫がある。
先の大戦の終盤。日本は兵力不足を補う為に、20歳以上の高等教育
機関に在籍する学生の動員を決めた。その壮行会が行われたのが
明治神宮外苑競技場。現在の国立競技場の場所である。
本書について詳細に説明する必要はあるまい。学徒兵が残した手紙・
日記・手帳等から集められた遺稿集だ。
夢も、希望もあったろう。父母や兄弟姉妹、恋人や妻への心残りも
あったろう。それでも彼らは戦場へと送られ、そこで命を落とした。
幹部候補生に合格したくなかったと嘆く者、理系へ転向してくれと
願う母の希望をやんわりと拒絶する者、古参兵からのいじめに
耐える者、飢えと渇きに苦しみながらも自らの痩せ衰えた身体を
スケッチとして残す者。
学業の道を中断され、死に行くことを強いられた若き心の声が
つまった書である。皆、高等教育を受けているだけあって整然と
した文章が多いが、それでも心の葛藤は十分に伝わって来る。
彼らの頭脳が戦争で失われなければ、いつかはいろんな方面で
花開いたかもしれぬ。それは、本書が取り上げている学徒兵に
限らない。
学徒兵以外にも徴兵で失われた命はたくさんあった。それぞれが
我が家へ、故郷へ、想いを残して散っていたのであろう。望まぬ
死であったはずなのに。
戦場で、広島で、長崎で。その他、戦災に遭った各地で亡くなった
人たちを悼む一番の方法はなんだろう。
それはきっと、日本が戦争をしないことであり、戦争に手を貸さない
ことなのではないだろうか。間もなく69回目の8月15日が来る。
- 感想投稿日 : 2017年8月20日
- 読了日 : 2014年8月12日
- 本棚登録日 : 2017年8月20日
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