村が消えた―むつ小川原 農民と国家 (講談社文庫)

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感想 : 1
5

10年に渡る取材を経て書き上げられたルポルタージュの傑作である。
再読にも耐えられる作品だが絶版なのが惜しい。

昭和初期に続いた大凶作で東北地方、そこへ満州開拓団の募集がかかる。
豊饒な大地を夢見て渡った満州では匪賊による反日・抗日運動に晒される。
農民たちが願ったのは安定した農業収入だったが、国が思い描いたのは
「武装開拓団」だった。

敗戦による満州からの逃避行はまさに阿鼻叫喚。子を失い、家族を失い、
やっとの思いで舞鶴港に辿りついた人たちを待ち受けていたのは、新たな
土地での開拓事業だった。

青森県下北郡六ヶ所村。開拓者たちが入植した一地域の物語は、熊笹に
覆われた土地を農地に変えることから苦労の連続だった。

酸性土壌の土地では農作物の豊富な収穫は望めない。借金は雪だるま
式に増えて行く。そして、度重なる国の農業政策の転換に翻弄される。

土地を手放し、農業を離れ、開拓地を去って行く者が増える。時は高度経済
成長期。地域の惨状に漬け込むように国家的事業の名の下、詐欺同然の
土地買収が進み、血の滲むような努力の末に開拓した部落は解散となる。

時代に、国に、農政に、弄ばれた人たちがいる。それは本書で取り上げれて
いる地域に限らない。三里塚闘争の舞台となった土地も、戦後の引き揚げ
者たちが開拓した土地だった。

民草。国を信じ、従って来た人たちをこの国は草以上、人間以下に扱って
来た。忘れてはならぬ歴史である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本田靖春
感想投稿日 : 2011年3月26日
読了日 : 2011年3月26日
本棚登録日 : 2011年3月26日

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