張り上げた声、大袈裟なジェスチャー。演説するヒトラーに熱狂する
会場の人々。何故、人々はこれほどまでにヒトラーに熱狂し、支持を
したのか。
ヒトラーが行った節目節目の演説をつぶさに分析しているのかと思って
購入したのだが、さにあらん。
1919年10月のミュンヘンのビアホールで行われた初の公開演説から
地下壕で最期を迎えるまで。ヒトラーが行った演説で使われた言葉や
表現方法の変遷を年代順に追っている。
思っていた内容とは違ったけれど、これはこれで興味深かった。ヒトラー
と言えばやはりユダヤ人への弾圧を思い浮かべるのだけれど、一時期
の演説では「平和」という言葉が多用されていたなんて知らなかった。
元々、演説家としての天賦の才はあったのだろうな。それに磨きをかけ
たのがオペラ歌手による指導。声の出し方、抑揚のつけ方に加えて
効果的な身振り・手振りを教わって、聴覚ばかりか視覚までを惹きつけ
る演説に仕上がって行った。
しかし、熱烈なナチ支持者以外のドイツ国民は結構早い時期にヒトラーの
演説に飽きていたっていうのも知らなかったわ。
政権を手にしてラジオ放送を独占できるようになり、「全ドイツ国民は総統
の演説を聞かねばならぬ」となったのが原因か。会場で響き渡る声を耳に
し、言葉を印象付けるジェスチャーを目にしながら聞くのは状況が違う
ものな。
末期のヒトラーは既に得意だった演説をする気もなく、したとしても以前の
ように人々を惹きつけることもなくなった。それどころか、将校たちを前に
しての演説でも将校から皮肉を返される始末。
演説は天がヒトラーに与えた才能だったのだろうな。でも、それさえも用を
果たさなくなるのが独裁者の末路なのかも。
膨大な言葉のデータを集め、分析した著者の根気が凄いわ。巻末にいくつ
かの演説のドイツ語文で掲載されている。私がドイツ語を理解できれば
もっと面白く読めたんだろうな。
語学の才能も「ゼロ」の自分が恨めしい。
- 感想投稿日 : 2017年8月22日
- 読了日 : 2016年1月8日
- 本棚登録日 : 2017年8月22日
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