ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書 2272)

著者 :
  • 中央公論新社 (2014年6月24日発売)
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張り上げた声、大袈裟なジェスチャー。演説するヒトラーに熱狂する
会場の人々。何故、人々はこれほどまでにヒトラーに熱狂し、支持を
したのか。

ヒトラーが行った節目節目の演説をつぶさに分析しているのかと思って
購入したのだが、さにあらん。

1919年10月のミュンヘンのビアホールで行われた初の公開演説から
地下壕で最期を迎えるまで。ヒトラーが行った演説で使われた言葉や
表現方法の変遷を年代順に追っている。

思っていた内容とは違ったけれど、これはこれで興味深かった。ヒトラー
と言えばやはりユダヤ人への弾圧を思い浮かべるのだけれど、一時期
の演説では「平和」という言葉が多用されていたなんて知らなかった。

元々、演説家としての天賦の才はあったのだろうな。それに磨きをかけ
たのがオペラ歌手による指導。声の出し方、抑揚のつけ方に加えて
効果的な身振り・手振りを教わって、聴覚ばかりか視覚までを惹きつけ
る演説に仕上がって行った。

しかし、熱烈なナチ支持者以外のドイツ国民は結構早い時期にヒトラーの
演説に飽きていたっていうのも知らなかったわ。

政権を手にしてラジオ放送を独占できるようになり、「全ドイツ国民は総統
の演説を聞かねばならぬ」となったのが原因か。会場で響き渡る声を耳に
し、言葉を印象付けるジェスチャーを目にしながら聞くのは状況が違う
ものな。

末期のヒトラーは既に得意だった演説をする気もなく、したとしても以前の
ように人々を惹きつけることもなくなった。それどころか、将校たちを前に
しての演説でも将校から皮肉を返される始末。

演説は天がヒトラーに与えた才能だったのだろうな。でも、それさえも用を
果たさなくなるのが独裁者の末路なのかも。

膨大な言葉のデータを集め、分析した著者の根気が凄いわ。巻末にいくつ
かの演説のドイツ語文で掲載されている。私がドイツ語を理解できれば
もっと面白く読めたんだろうな。

語学の才能も「ゼロ」の自分が恨めしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月22日
読了日 : 2016年1月8日
本棚登録日 : 2017年8月22日

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