三重スパイ――CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」

  • 太田出版 (2012年11月22日発売)
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5

フマム・アル・バラウィ。ヨルダン・アンマンに住む青年は勤勉な
医師という表の顔とは別に、裏の顔を持っていた。

それはイスラムの聖戦主義サイトにペンネームで過激なコラムを
投稿することだった。

日を追うごとに過激さを増していく彼の書き込みは、アメリカの
同盟国であるヨルダンの総合情報部の目に留まらない訳が
ない。

突然の逮捕。それに続く3日間の尋問。その後、自宅へ帰され
たフマムは逮捕以前とは別人となっていた。そう、彼が総合
情報部と交わしたのは義勇兵としてアルカイダに潜り込み、
CIAがその行方を必死に探しているウサマ・ビン・ラディンを
始めとした高級司令官の居場所を探ることだった。

ヨルダン総合情報部とCIAが連携した二重スパイ作戦は、
一時、フマムと音信不通となり失敗したかに思えた。しかし、
フマムから送られて来たメールに添付された動画には大き
な収穫が見込めるものだった。

「黄金の情報提供者」。CIAはフマムとの直接の面談を求め、
計画を立てた。だが、それは後々、大惨事を引き起こす。

2009年12月30日。アフガニスタン東部のホースト州にある
CIAの前哨基地・チャップマン基地で女性基地司令官を
含むCIA職員7人、ヨルダン総合上部部員1名、アフガニスタン
人運転手1名が死亡し、6人が重傷を負う自爆テロが起こった。

この自爆テロの犯人こそが、青年医師だったフマムだ。

本書ではCIA史上に残る大失態とも言われる基地内自爆
テロ事件の経緯を詳細に追っている。そして、通常では
顔のない自爆テロ犯にもスポットを当て、二重スパイと
してアルカイダに送り込まれたはずのフマムが、何故、
ヨルダン総合情報部とCIAを裏切る行為に走ったのか
を描いている。

面白いといったら語弊があるが、事実は小説よりも奇なり
で、二重スパイが実は三重スパイであったという掘り起こし
が非常に興味深い。

そして、最終章ではアメリカ政府によるウサマ・ビン・ラディン
暗殺の模様も描かれている。

また、無人機プレデターによる攻撃が、アメリカの言う「テロ
との戦い」を如何に変容させたかも参考になる。

既にウサマ・ビン・ラディンは暗殺された。しかし、アメリカは
今でもテロに怯えている。ひとりのビン・ラディンを暗殺しても
何百人ものビン・ラディンを生むだけだと誰かが言っていた
のを思い出した。

報復には報復で…なんてやっていたら永遠に終わるものじゃ
ないよな。憎しみと怒りが生み出すのは、新たな復讐者以外
にないもの。

尚、本書は翻訳もこなれていて読みやすい良書だ。

そして、気になることがひとつ。アメリカの国家安全保障局
には特殊な検索エンジンがあって、アメリカの脅威になり
そうなものを吸い上げているそうだ。

えっと…本書を読んでいる間、自爆テロとかアルカイダとか
タリバンとか聖戦とか、いろいろ調べてたんだけど、ある日、
突然、我が家に公安が乗り込んでくる…なんてないだろうな。
ビクビク…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月20日
読了日 : 2014年5月1日
本棚登録日 : 2017年8月20日

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