「筑紫さんがどうしても伝えたかったこと」
2007年5月14日、TBS『NEWS23』で肺癌であることを告げた筑紫さんは、翌年11月7日に東京の病院でこの世を去った。本書プロローグの冒頭に登場する「最後の多事総論」(WEB版)のタイトルは「この国のガン」。自分の病気と重ね合わせ、日本の現状を次のように表現した。
「この国というのは一言でいえば〝ガン〟にかかっている。」
オウム真理教をめぐるTBSビデオ問題が起こった時、「TBSは死んだに等しい」と内部批判した筑紫さんである。その姿勢を日本の現状に向ければ、こういった表現にならざるを得なかったのであろう。
この本全体を読み解くために、まず一読していただきたいのが、第三章「〝連子窓〟の弟子として」である。
これは、丸山真男氏をめぐる想い出から説き起こし、その思想を継承=「追創造」するとはどういうことかを語った講演の記録である。時事的であるがために、小刻みに展開される本書の他の文章と比較すれば明らかに違った読みごたえを感じる部分である。
終戦時10歳であった彼が体験した、世の中全体がひっくり返るような事態。そこに生きていた責任ある(はずだった)人々の転向と変節。その中に、彼は全く例外的な存在として丸山真男氏を見出す。
筑紫さんが、丸山真男氏の思想を最も「追創造」しなければならなかった課題は何だったのか。そのことを考え合わせながら読み進む時、筑紫さんが日本の現状について、どうしても伝えたかったことが浮かび上がってくるだろう。
- 感想投稿日 : 2009年10月29日
- 読了日 : 2009年10月29日
- 本棚登録日 : 2009年10月29日
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