
一般向けの概説書と銘打つソフトカバーだが、豪華執筆陣の冷静で幅広い記述や座談会は、じんわり染み込んでくるほどに良質だった。
戦後日本政治の中で、吉田茂の時代は歴史認識の自主的総括を回避することで米国の同盟国として国際社会に復帰。佐藤栄作の時代は日韓・日中国交正常化により法的解決に目途が立つ一方で次の時代の国際問題化の準備となる。80年代の鈴木・中曽根の時代は、中韓の側が日本との友好関係を欲していたとともに日本の政治家・外交官も自覚して抑制的であったという。裏を返せば、その後、近年の「歴史認識問題」の噴出はこのような80年代の要素が失われたためということだろうか。
後半の座談会では、歴史認識問題については、「和解は不可能」としつつも、二倍謙虚になり相手に対しては二倍寛容になること、受け入れる側の姿勢も重要であること、妥協や調整の余地の必要性、といったことが指摘されている。また中国については決めつけをせず観察すること、韓国については歴史認識以外で交流が進展しつつある領域へも目を向ける必要性、がそれぞれの専門家から語られている。現実的には容易ではないのだろうが。また、この座談会は2015年に開催されたものだが、現在、既に米韓では当時とは大いに異なる性格の指導者が誕生している。歴史認識問題のどこまでが指導者の性格により左右され、どこまでが左右されない構造的なものなのだろうか。
- レビュー投稿日
- 2017年5月11日
- 読了日
- 2017年5月11日
- 本棚登録日
- 2017年5月11日
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