私の個人主義 (講談社学術文庫)

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レビュー : 141
著者 :
Kさん 言語・思想・宗教   読み終わった 

夏目漱石の講演集。
「道楽と職業」、「現代日本の開化」、「中味と形式」、
「文芸と道徳」、「私の個人主義」の5篇が収録されている。

「中味と形式」、「私の個人主義」が面白かった。
夏目漱石は、真面目で誠実で、信頼できる人物だと思う。
それに諧謔味に富んでいて軽快。

「中味と形式」
P74
「すべて政治家なり文学者なりあるいは実業家なりを比較する場合に誰より誰の方が偉いとか優っているとかいって、一概に上下の区別を立てようとするのは大抵の場合においてその道に暗い素人のやることであります。専門の智識が豊かでよく事情が精しく分かっていると、そう手短にまとめた批評を頭のなかに貯えて安心する必要もなく、また批評をしようとすれば複雑な関係が頭に明瞭に出てくるから中々「甲より乙が偉い」という簡潔な形式によって判断が浮かんで来ないのであります。」
身近な例だと、一見面白くて的を射ているようだけどそうでもない
レッテル貼りのことを思い出す。

「私の個人主義」
P134
「けれどもいくら人に賞められたって、元々人の借着をして威張っているのだから、内心は不安です。手もなく孔雀の羽根を身につけて威張っているようなものですから。それでもう少し浮華を去って摯実に就かなければ、自分の腹の中はいつまで経ったって安心は出来ないという事に気がつき出したのです。」
P136
「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼ら何者ぞやと気概が出ました。今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自己本位の四字なのであります。」
P137
「その時確かに握った自己が主で、他は賓であるという信念は、今日の私に非常の自信と安心を与えてくれました。私はその引続きとして、今日なお生きていられるような心持ちがします。」
P138-139
「行けないというのは、もし掘り中てる事が出来なかったなら、その人は生涯不愉快で始終中腰になって世の中にまごまごしていなければならないからです。私のこの点を力説するのは、全くそのためで、何も私を模範になさいという意味では決してないのです。私のような詰まらないものでも、自分で自分が道をつけつつ進み得たという自覚があれば、あなた方から見てその道がいかに下らないにせよ、それは貴方がたの批評と観察で、私には寸毫の損害がないのです。私自身はそれで満足する積りであります。」

他人のものさしで自分の人生をはかることをやめた、
と言っているように受け取った。自分の人生を自分のものさしで見て、
十分満足いくように進んで行けば、それでよい。
その、ものさし、というか価値観を自分の手で掘り当てることが重要。
そしてその価値観を得たからと言って、他人に強要することのない、
謙虚さがある。

レビュー投稿日
2013年7月8日
読了日
2013年7月7日
本棚登録日
2013年7月7日
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