量子力学の反常識と素粒子の自由意志 (岩波科学ライブラリー)

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著者 :
澤田拓也さん 科学   読み終わった 

アインシュタインがポドルスキーとローゼンと組んで量子力学におけるパラドックスを指摘したEPR論文(EPRはそれぞれの名前のイニシャルを取ったものである)。ボーアを中心としたコペンハーゲン解釈に対して納得せず、その不完全性を何度も指摘しようとしたアインシュタイン。その批判の代表でもあるEPR論文を実験で検証可能であることを示したベルの定理。物理量の非実在性や非局所性が問題とされたこれらの議論を取り上げて、実験による検証結果がどのような意味を持つのかを数式を使わずに読者に対して説明する、というのがこの本の目的である。

EPRパラドックスを説明するにあたり、まずは電子のスピンとその状態の重ね合わせの説明から始める。そこで、電子二つからなる系の状態は重ね合わせにより確定しているが、系を構成する個々の粒子(電子)の状態は確定しないという状態があることを示す。これにより一つの系を構成する二つの粒子が遠く離れた後に片方の粒子の状態を観測によって確定すると、その瞬間にもう一方の粒子の状態が確定するといういわゆる量子もつれの状態を理論的に作り出すことを示した。このとき、もし観測以前に隠れた完全な物理量がないのであれば、片方の粒子を観測したという情報が瞬時に(光の速度を超えて)遠隔で働くことになる。これは相対性理論に矛盾するというのがEPR論文の主張だ。ここでは情報が光の速度を超えるというよりも物理的な影響の局所性が成立しないというように理解した方がよいのだろう。

アインシュタインは、量子力学においては物理量の実在性と局所性が両立しないということをパラドックスとして示したのだが、量子力学ではどうやらその通り「両立しない」というのが正しいのだそうだ。現実の実験では、光子、陽子、原子イオンなどの複数の粒子において量子力学の予言が正しいことを示す結果が出ている。本書では、実験によってそのことを検証するベルの不等式の説明をわかりやすく(?)、とにかく何とかわかったのかなと思わせるくらいになるまでは説明してくれる。

またベルの不等式にからめて出てくるコッヘン-スペッカーの定理は、実在性というものが状況に依存することを示すものである。マーミンの魔法陣による比較的丁寧な説明があるが、どうもわかったようでわからない。しかし、量子論の世界、つまりは我々の世界では、個々の測定値は他の物理量の測定の設定に依存するが、平均値にはそのような依存性がないという不思議なことが起こる。そして究極的になぜそうなるのかはまだわかっていない。

本書の最後では、測定者の自由意志について議論される。量子論では観測者が重要な位置を占めるが、その場合、測定者の自由意志を暗黙の前提としている。 測定者がいつどのような形で測定をするのかが自由意志によって行われることが前提とされたが、果たしてそうなのであろうかというのがここでの問いである。タイトルにもある「素粒子の自由意志」は比較的新しい議論で、因果的決定論が現実には成立しないのではないかという議論である。量子論の結果にしたがうと、「局所性」と「実在性」と「自由意志」のどれかをあきらめないといけないらしい。

EPR論文がベルの定理が示された後になってから非常にたくさんの論文から参照されていることを示すグラフが本書の中にある。つまり、EPRパラドックスが思考実験の問題ではなく現実的に検証可能な問題であったということが、それだけ影響があったということだ。その結論はおそらくこの現実世界に対する科学的認識に影響する。そしてその世界は、我々が通常思い描くものとは異なるものだということが、ほとんど疑問の余地なく示されている。そのことについて、比較的わかりやすく、また簡潔にまとまっている。それほど興味がある人が多くいるとは思えないのだけれども、興味がある人は読んでみてもいいと思う。

なぜにこれほどわれわれの認識の常識と量子世界の振る舞いは違っているのだろう、と問うのは逆なのかもしれない。なぜにそれほどまでに違ったようにわれわれの常識ができあがってしまうのだろうと問うべきなのだろう。


なお、ボーア-アインシュタイン論争でのEPR論文をめぐるやりとりについては、『そして世界に不確定性がもたらされた』にも詳しい。ヒューマンドラマとして見るのであれば、こちらを。



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『そして世界に不確定性がもたらされた』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152088648

レビュー投稿日
2015年12月24日
読了日
2015年12月6日
本棚登録日
2015年12月5日
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