ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか (角川文庫)

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澤田拓也さん 科学   読み終わった 

NHKスペシャルの番組の取材を書籍にしたものだ。NHKスペシャルは『沸騰都市』や『ヤノマミ』など書籍化されるものも多い。NHKスペシャルのような人と手間をかけた作品においては映像と書籍とは、相補的な関係にある。枠が決められた放送番組だけでは伝えきれないものを書籍で伝えることができる。また文字だけで伝えられないことを映像で表現することができる。たとえば『ヤノマミ』はまさしくそのような作品であった。

「この本は、人類の壮大な歴史のなかに、私たちの心の進化を追いかけるものだ」

グレート・ジャーニーと呼ばれるアフリカからの出発と全地球規模の人類の拡散。この過程において、人間の心はどのように発展していったのだろうか、というのがこの作品のテーマだ。『イヴの7人の娘たち』などの書籍でも一般的になったが、現生人類は5万年ほど前に東アフリカの大地で生活をしていた非常に少ない数の人類から全世界に広がったと言われている。その中で、人類の攻撃性と協調性とがどのような役割を担ったのかが提示される。

本書のひとつの大きなトピックは、現生人類とネアンデルタール人の交流と比較だろう。ネアンデルタール人がなぜ滅亡をしたかについて定説は確立していない。本書でも挙げられているように、現生人類に対する単なる種としての優劣ではなく、多くの原因が重なったものだろう。本書では、現生人類が最終的に生き残った想定要因のひとつとして、投擲具の利用を挙げている。ネアンデルタール人は、その大柄な体格から必要がなかったのではないかと。また、その事実が現生人類の持つ攻撃性の問題につながる。

いずれにせよ、彼らが現生人類の祖先と遭遇したのは確実であるようだ。ある研究によるとアフリカ以外の人類で1~4%の遺伝子がネアンデルタール人と共通しており、異種交配の可能性を示しているとのことだ。それは真実なのだろうか、またそれは進化の過程においてどのような影響があったのだろうか。まだまだ分からないことがたくさんあるということはある意味ではよいことだ。

人間の持つ攻撃性については、なぜ人類が全地球規模に広がっていったのかという考察にもつながる。ひとつの要因として、子どもが増えたときに食糧不足の原因もあるだろうが、本来的に持つ攻撃性によるグループ間の戦いの結果として、あるグループが別の場所を探していったということが継続的かる広範に起きたということも理由としてあるのかもしれない。コンピュータシミュレーションでも、身内に対して利他的で、対外的に非友好的なグループが最終的に優勢になったという結果も紹介されている。もちろん、こういうシミュレーションはルールの設定にも依存してしまうので拙速に結論を出すべきではないのだが。

「意識しようがしまいが、人間のなかには、闘争に駆り立てられる生理的な仕組みがある。その仕組みはなぜ、私たちに広く組み込まれることになったのだろうか」

放送は4回にわたって行われた。章立てと同じく、助け合いについて、投擲具(=攻撃性)、農耕(定着と摩擦)、貨幣(交換と不平等)の登場をキーテーマとして展開される。おそらくは番組制作の企画段階で練られたものだと想定するが、結論ありきで仮説を集めているところもある。目的のひとつでもあるのだろうが、取材の過程に割かれるパートも多く科学書としてはやや物足りない。たとえば、

「そもそも類人猿の社会は、優劣がはっきりした階級社会で、平等ではない。人類の遠い祖先もおそらく不平等の社会をつくっていたはずだ。つまり平等主義に基づく社会は、人類が誕生し、その進化の過程で築きあげたものなのだ」

格差社会批判をやりたいとも取れるが、考察がやや足りていないように感じる。作品全体としてやや消化不足かなという印象だ。NHKスペシャルといった作品の可能性とともに限界が出ているように思う。ただ、NHKの資産としては何等か有益なものが残ったと思う。重要で興味深いテーマだと思うので、NHKさんには予算を付けてもらってこの先もまた何度か取り上げてほしい。

レビュー投稿日
2015年5月11日
読了日
2015年5月10日
本棚登録日
2015年5月11日
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