戦争の記憶 コロンビア大学特別講義 学生との対話 (講談社現代新書)

3.86
  • (9)
  • (10)
  • (7)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 141
レビュー : 16
澤田拓也さん 哲学批評   読み終わった 

2017年11月から翌年2月までコロンビア大学にて日本近現代史を専門とする著者を囲んで行われた全4回の学生との対話を本にしたものである。学生は日本を含む多国籍な出自を持っているが、発言に相応に生まれ育った国の影響が見て取れるのが面白い。一方で、その発言はグローバルな共通理解の範囲の中にあるとも言えるし、逆に国際政治を学び、興味を持って議論に参加する彼らの発言がグローバルスタンダードであると考えるべきなのかもしれない。

全体テーマは「戦争の記憶」で、各回は次の通り。
第一回 Memory and History
第二回 Operations of Memory
第三回 The Comfort Women in Public Memory
第四回 The Past in the Present

第二次世界大戦からすでに70年以上が経過し、実体験として知っている人がいなくなるにつれて、「記憶」がどのように形成されるのかはますます重要となり、それは政治の問題となって「記憶の政治」が経ち現れてくる。それは忘却されてなかったものとなるどころか、日本においても中国や韓国との間でますます課題となり続けているし、欧州でもアメリカでも同じように「記憶」のし方が課題となっているのである。

「記憶」は作られる。それは個人の記憶でも、集団の記憶でもその観点においては同じことのように思われる。どのように記憶されるかは、また個人でも集団でもその記憶のし方がその記憶を強化する形となったときにそのように定着される。その記憶をゆさぶることができるのは、他者の記憶であり、記録を含めた他者への敬意であろう。

ヘイトスピーチに代表されるように、過去の他者の記憶の蓄積がないものほど、単純な記憶によって自らの行動に影響させやすい。今、もし戦争の記憶が問題となるのであれば、それはネットワークの拡大による記憶の生成と取得があるからにほかならない。また、戦争の記憶は必然的にナショナリズムに結合する。

「記憶の物語とは「国民の物語」なのです」

と語る。

「「歴史は正確であろうと」します。ですが、歴史は必ずある立場に立って書かれているので、正確であろうとする試みがいつも成功するとは限りません」

「正確な歴史」というものがあるのかどうかもわからない。アメリカ人にとってのパールハーバーの記憶は、日本にとってのそれとは異なる。一方で、「アメリカと日本は、共同して両方の国にとって心地よい太平洋戦争の物語を作り上げました」というのは戦後の経緯としてきっと正しい。「アメリカの物語は原爆までを語り、日本の物語は原爆から始まります」- 日本の戦争の記憶には、空襲と原爆投下と玉音放送によって戦争が終わるという物語があるが、そこには中国との戦争が欠けている。南京事件が国内でかきたてる騒動は、それが物語に組み込まれてこなかったことにも由来する。

また、グローバルにおける戦争の記憶の位置づけも変わってきた。著者が指摘するように歴史に対する謝罪が政治の舞台で論点となるようになったのは、戦後しばらくの時間を置いてからのことだ。それに対して意識的でなくてはならないし、おそらくは個人の責任もそこにはある。政治家もメディアも国民の方を向いている。LGBTに対する見方が劇的に変わったことからわかるように、あることに対する見方が変わるのに思ったよりも時間は必要ない場合もある。

著者は慰安婦をテーマに取り上げて、「慰安婦が共通の記憶に取り込まれるプロセス」について議論する。学生たちの反応は、慰安婦について東アジア史で学んだという人が多く、知識を有していた。これは、20年前はありえなかった話だという。
「ホロコーストの記憶はジェノサイドに対する世界の見方に変化をもたらし、一方、慰安婦の記憶は戦時における女性への暴力に対する見方を変化させたのであった」

「ホロコースト」と「慰安婦」の問題を並列に並べることに違和感を覚える人もきっと多いだろう。戦時の性暴力に関してはおさらくは多くの人が知っているように、慰安婦の問題は特異なものではなかったという人も多いだろう。それを知った上で、「記憶の政治」に関わらなくてはならないということを言わんとしているのではないかと思う。いずれにせよ、国際政治の中で、日本が記憶の政治において失敗をしていることは、その結果から明らかであり、多くのものごとと同様それを他責にすることは何の解決にもならないのだから。

レビュー投稿日
2020年1月3日
読了日
2019年10月3日
本棚登録日
2019年10月9日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義 学生...』のレビューをもっとみる

『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義 学生との対話 (講談社現代新書)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。
ツイートする