国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

  • 早川書房 (2013年6月21日発売)
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地理的要因と家畜化および農耕化可能な野生生物種の存在を文明発祥の起源としての条件を提示したジャレット・ダイヤモンドの名著『銃・病原菌・鉄』に対して、その統治形態によって、国家の趨勢が決まるというのが本書の要点だ。
しかし、『銃・病原菌・鉄』のスコープと本書はスコープと論点が異なっており、明らかに互いに排他的な議論をしているわけではない。名が通ったものを恣意的な解釈のもとにアンチとして定義し、それ対して自らを対置することで正当性を主張する手のように見え、あまりいい印象を持つことができない。

著者の主張をまとめると、ごくシンプルで、統治形態が収奪的である場合は経済的繁栄は持続しないし、包括的制度である場合は繁栄する、というのが主張である。その事例としてスペインとイングランドの植民地政策の違いを歴史的に考察し、南北アメリカの違いを説明する。
スペインとイギリスの植民地政策の違いは、マクルーハンにも取り上げられて、決して新しい視点ではない。また、収奪的システムが経済的自立を阻害するのは、社会主義国家の失敗やアフリカの多くの独立後の国家の状況、さらには南北朝鮮の明白な違いを見れば明らかだ。

本書のテーマに対応する本としては『銃...』よりも、ウィリアム・バーンスタインの『「豊かさ」の誕生』を挙げる方が適当だろう。参考文献には挙げられていないので、著者が読んだかどうかは分からないが、そのスコープや着眼点は重なっている。成功した国家としてイギリスやオランダ、明治維新以降の日本を挙げている点も同じだ。『「豊かさ」...』では、「豊かさ」の発展の必要条件として「私有財産制度」、「科学的合理主義」、「資本市場の形成」、「輸送技術と通信技術」の4つを挙げている。本書では、おそらくはそれらに先立ち統治形態がより根源的な支配条件だと主張していると考えることができる。特に、「私有財産制度」と「資本市場の形成」は、包括的制度の必然の要素である。どちらの本に説得力があったかと言われると『「豊かさ」...』の方に自分とした軍配を挙げる。機会があれば合わせて読むとよいだろう。

また売れている本では、マット・リドレーの『繁栄』も対比できる本だが、『繁栄』では、人間が獲得した「交換」の能力が繁栄を約束したという。その要因をより根源的なものに焦点を当てているが、国家間で繁栄の差があることについては、あまり気に掛けていないように思われる。その意味で、両者は互いに補完するような関係にあると見ることもできるだろう。個人的には、『繁栄』の方が視点に意外性がありかつ根源的な問いかけがされていて面白い。

いずれにせよ上下巻に渡る大著である。もう少し短くできたかとも思うが、かなりの史料をベースにした真面目な本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学批評
感想投稿日 : 2013年12月28日
読了日 : 2013年9月19日
本棚登録日 : 2013年12月28日

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