見てしまう人びと:幻覚の脳科学

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本棚登録 : 236
レビュー : 20
制作 : 大田直子 
澤田拓也さん 科学   読み終わった 

オリバー・サックスの本は、臨床事例は豊富だが、その症例に関する脳神経科学的考察がないことが多く、知的疑問に答えられていないことが多い。本書もその例にもれず、幻覚をテーマにした多数の事例が紹介されているが、最近の知見であるfMRIやPETなどによる脳の生理学的な側面からの検証もほとんどなく、また統計的な分析もない。シャルル・ボネ症候群、感覚遮断、パーキンソン病、片頭痛、癲癇、薬物中毒、入眠状態、など症例はさすがの質と量を誇っているのに、常に肩透かしをもらうような感じを受ける。

中でも視覚を失ってからもないはずの目を通して見るように幻覚を見るというシャルル・ボネ症候群の症例は重要なのだろう。この場合、患者は幻覚を幻覚であると意識をして見ているところが特徴的だ。一方では、幻覚を幻覚として認識しない症例も多い。その場合には、そのことによって生じる矛盾についても何とか取り繕おうとすることも多いようだ。いずれにせよ、幻覚は、正常な感覚入力を失ったときの、脳の働きについて何かを教えてくれる。

こういった事例をたくさん集めてみると、幻覚や幻聴というものはそれほど珍しいものではないのではないかというのが著者の主張でもある。昔の人は幻覚・幻聴が聞こえて、普通にその内容が人びとの生活において重要な役割をはたしていたのではないかという説もある。本書でも触れられているが、ジュリアン・ジェインズが『神々の沈黙』で唱えた説だ。彼によると約1,000年ほど前に意識の誕生とともに「声」は内面化して自分自身のものとして認識されることで、幻覚・幻聴が抑圧されることとなったという。著者も比較的肯定的にこの説を取り上げているが、幻覚はもっと身近なものとして捉えられるべきものではないかという。実際に著者が薬物によって幻覚を見た例も取り上げられている。

おもしろくないとまでは言わないが、おもしろくないと言えば面白くないかな...。もっとおもしろくできるんじゃないの、と思う。


『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4314009780

レビュー投稿日
2015年11月8日
読了日
2015年11月7日
本棚登録日
2015年11月8日
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