なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

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レビュー : 92
著者 :
澤田拓也さん  未設定  読み終わった 

日本の経済力を考えた場合、グローバルな企業の競争力ばかりに目が行くが、実際のGDPと雇用の多くを占めるのは、地域に根差したローカルな企業である。グローバル経済とローカル経済とではそこに働く力学が大きく異なるため、それぞれについて正しい見方をする必要がある、というのが本書の骨子だ。大きな違いは、「規模の経済性」が効くグローバルと「密度の経済性」が大きな意味を持つローカル、ということができるのかもしれない。

グローバルで競争する企業は、グローバルで「規模の経済性」を得るため激しいシェア争いを勝ち抜くことが必要であり、そのために経営者は正しく経営資源を競争優位性を持つ事業に集中させることが必要となる。電機メーカーをはじめとする日本企業はこの選択と集中ができずに不採算事業とともに沈んでいった企業が多いと指摘する。日本政府のこのフィールドでの役割は、そういったグローバル企業が競争しやすくするための規制緩和を徹底的に行うことである。

課題となるのは優秀な人材の育成や誘致である。グローバル企業の理想として、やはりシリコンバレーの企業をおいており、起業を増やすために、そのことが優秀で高い意志を持つ人にとって起業が有利な判断となるような社会になるべきだと考えている。著者はよい傾向として、「東大を出て日本の安泰な企業に行きたがるのは、東大の中では二線級の人たちだと言われるようになった」として、こういった人材がいったん外資系コンサルファームに行って、起業する人も多くなっているという。著者は自らの成功体験を背景に高いエリート意識を隠さないが、優秀なトップクラスの人間がグローバルで勝負をする、という発想がある。がそういえばIGPIは無限ラボをサポートしていた。

一方で、これからの日本はローカルをどのようにしていくのかが国家としても重要事項となる。これをグローバル企業のモデルと同一視してはいけない、というのがこの本が他と異なる主張をしているポイントだろう。ローカルにおいては集約化と穏やかな退出を可能にするための規制作りが重要事項となる。グローバル企業の最重要KPIは資本効率性で、ローカル企業の最重要KPIは労働生産性であるという指摘がそのことをよく表している。

バス運航事業などのローカルの事業体では、競争事業者は実質上存在しない。グローバルな事業とは異なり、営業地域が異なるバス会社同士は、同じ事業を行うにも関わらず、互いに競争関係にはない。そういったローカル企業については、他の例をいくつも挙げることができる。例えば、地方のケーブルテレビも同様である。そのような場合、企業の良し悪しはオペレーションの効率性に依存する。しかし、競争がないから効率性が悪い企業もブラック企業として生き残ってしまう。この解決策として、サービス業の最低賃金を上げることで、効率性の悪い企業が音を上げて効率性のよい企業や経営者に任せるところまでいかせることだという。そのときは、ソフトランディングが可能なような規制を整えることが必要であるとのこと。そして、地域交通機関、医療介護、保育といった公共サービスにこそこの考えが当てはまるとのこと。補足として、信用保証制度による債務規模が、これまで一生懸命に中小企業をつぶすまいとしてきた証でもあり、つぶれるべき企業が生き残っている状況が作り出されていることが示されている。

著者は、地方ではコンパクトシティ化を進めることを説くが、これは集約化であるとともに限界集落からの退出をどうやって穏やかに進めるのかという話であるという。鉄道の駅と主要バスターミナルの駅に駅前商店街を復活させることで、モビリティの問題なども解消する(バス会社も効率的になる)。著者の冨山氏は、みちのりホールディングスという東北・北関東地方を中心としたバス運営会社と運営している。地方では雇用はなくなっていくのではというイメージがあるが、実際には地方から先に人不足が始まっているという。実際にCEOを務めるみちのりホールディングでも常にバス運転士の不足に泣かされているという。その上で、人手不足対策を「労働生産性の向上」「女性と高齢者の活用」「外国人の雇用」の順番で考えることが重要であると指摘する。日本社会は移民に対して脆弱であるため、むやみに外国人の受け入れを進めるべきではないのだと。


著者は多くの企業再生に携わったが、旅館街の再生の話など印象深いものがいくつもある。カネボウやJALのリストラでは、人員整理に手を付けることに対して躊躇はなく、実際に多くの社員が再就職できたという(実際にリストラに会った人はこれを読んでどう思うかというのは気になるが)。一方、ローカル企業においては、地域に根ざすその人の人生が破綻しないようにものすごく気を遣うことになったという(この時点ではまだ地方でも人余りの問題があった)。また、日本の大企業の企業再生に関わった著者の指摘する日本の企業の問題点としてダイバーシティの欠如を挙げていることが印象的。「地頭が良い、地頭が悪い、知識がある、知識がないということで、意思決定を間違える企業はほとんどない。ガバナンス上の大きな過誤は、ほとんどが人間の性から生まれている」というのは、グループシンクや過度の忖度などを考えても示唆的である。

この本を読んで気が付いたことのひとつは、通信事業者というのが極めてローカルの世界のビジネスであるということだ。技術がグローバルになり、端末も世界で売られているものと同じものとなり、インターネットというグローバルな世界との接続を担うことからグローバルの世界のビジネスをしているのかと無意識には思っていた。しかし、競争環境という点を見ても、Verizonやチャイナテレコムと直接競争するわけではないということからもわかる。そうやって見ると、違ったふうに見えることもあるかもしれない。その意味で役に立ちそうな本である。

レビュー投稿日
2018年10月28日
読了日
2018年10月14日
本棚登録日
2018年10月14日
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