GE 巨人の復活 シリコンバレー式「デジタル製造業」への挑戦

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  • 日経BP (2017年6月13日発売)
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エジソンの時代からの老舗の電機メーカーGEは、ジャック・ウェルチの時代に一時はNBCや金融事業に業態転換をして高収益企業として生まれ変わったと言われていた。CEOのジェフ・イメルトはGEを時代に合わせて「デジタル製造業」へ生まれ変わらせると決断し、シリコンバレーのやり方を徹底的にまねて、実際に30万人の大企業のポートフォリオや人事施策を転換させた。本書が描くのはGEの「トランスフォーメーション」の実像となる。著者は日経BP社シリコンバレー支局勤務の記者。日本人が海外企業を取材をして一冊のしっかりとした本にまで仕上げるのは珍しいが、もっと多くの本が日本人の手により、日本人の視点も含めて書かれてほしい。

GEは、2017年2月の株主への手紙でこう宣言した(※)。
「産業界の多くの企業が20年前に進めた『デジタル筋肉』のアウトソーシングが、今日には敗者であると我々は学んだ。今後、GEのすべての新規採用者はコード(プログラミング)を学ぶことになる。彼ら全員がソフトウェアを書けるようになるとは期待していないが、デジタルの未来における『可能性の芸術(アート)』は、必ず理解しなければならない。
We have learned that outsourcing digital muscle – a move industrial companies made 20 years ago – is a loser today. Every new GE recruit will learn to code. We don’t expect them all to write software, but they must understand the “art of the possible” in a digital future.

GEはハードウェア企業からソフトウェア企業へと舵を切った。それが必要であると学んだからである。そのためにシリコンバレーのコンセプトである「リーンスタートアップ」や「デザイン思考」「アジャイル開発」などその方法論を全社員に学ばせたという。そして「FastWorks」というGE版のリーンスタートアップを作り上げた。問題発見-仮説特定-MVP開発-顧客によるテスト-結果反映、といったサイクルをぐるぐる回すということである。顧客自身もデジタル変革のために何が必要かわかっていないから、顧客に「要件定義」を求めないという。その代わりにGEが必要なアプリとサービスを提供するというのだ。
また、その方法論を徹底するためにそれまでの厳しい人事評価から、失敗に対して寛容な文化を作るための人事制度を大きく変更した。失敗を許容できるようになるには、素早くリカバリーできるスピードも必要となるため、組織のフラット化も同様に進められた。失敗を心地よく感じるようになる文化を作ることが目標でもあるという。コードを内製化できるようにすることも、この方法論を実践するために必要な結論でもあった。

10年前のGEは、金融や放送などの非製造部門の売上高が全体の4割を占めるコングロマリッド企業だった。2016年12月気には売上の91%がB2B向けの産業機器が占めるまでにそのポートフォリオを展開させたのである。そして、GEはこの世界においてプラットフォーマ―としてのポジションを戦略的に確立しようとしている(そのプラットフォームはPredixと呼ばれている)。
トップダウンのよいところはこうやって徹底させることができることだろう。徹底の中には、その結果として捨てるべきことを捨てるということも含まれている。

そもそもGEが脱・製造業への道を選んだきっかけは日本メーカーの存在であったという。インテルのメモリからCPU集中への戦略転換も日本電機メーカーの影響があったという。日本は韓国勢や中国勢の攻勢から何かを学び変化することがあったのだろうか。確かにSONYは金融分野にも進出し、メディアやネットにシフトしようとしたが、期待通りにはならなかったようではあるが。

デジタル変革に必要なものは、トップの決意、デジタル変革の方法論への理解、そしてデジタル変革に必要な人材を集めると同時に元からの従業員にデジタル変革の方法論を学ばせることだという。GEは、そのためにシリコンバレーにオフィスを構えたという。
GEという大企業がここまで大胆に動いているのは知らなかった。広く知られてほしい。

(※) LETTER TO SHAREHOLDERS
A Resilient Culture
https://www.ge.com/ar2016/ceo-letter/culture/

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2017年12月30日
読了日 : 2017年11月25日
本棚登録日 : 2017年11月25日

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