書評の仕事 (ワニブックスPLUS新書)

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  • ワニブックス (2020年4月8日発売)
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書評家という仕事があるというのを初めて知った。よく考えると、書評を書くという行為は、それを効率よくやるためにはかなり特定のスキルと経験を必要とするのは明らかだ。新聞・雑誌には書評というものが載っているし、今ではWeb媒体でも書評が載っているので、書評を書くということを職業とすることが成立するのは決して不思議ではない。そういった書評家である著者の印南さんは、もともと音楽ライターだったのだが、2012年からライフハッカーで書評を書き始めて、今ではこの人が紹介するとその本が売れると言われている売れっ子の書評家だそうだ。

まず、感心したのは、紙媒体の書評(例えば朝日新聞の書評委員に選ばれて書くようなもの)を「トラッド書評」と呼び、WEB媒体の情報を得るために書かれる書評を「ネオ書評」と呼び、著者はこの新しい分野である「ネオ書評」を書くことを職業としているというものだ。ネオ書評の目的は情報提供であるため、そこに主観や批評は求められない、と明言する。したがって、特権的な意識を持たずに、かつ最低限の品質を保った文章を提供するということが重要になる。この「最低限の品質を保つ」という点は著者が強くこだわっているところで、言い換えると何度も出てくる「誠実である」という、著者が書評家としてもっとも大事にしている価値観につながっている。

ネオ書評は、まず読者に伝わること、読者の目線に立ち、できればその共感を得ることである。それが、まず書評家が目指すべきことで、それを決して上からの目線ではなく読者の目線に立ち、誠実に行うことが継続して書評を届けるために必要なことだという。書評の評価基準も「いい書評」「ダメな書評」というものではなく「誠実か否か」によって判断されるべきだと主張する。これは「いい本」と「ダメな本」という評価ではなく、まず誠実な本であるかどうかを基準とするという考えにも似ている。そう考えると共感できるポイントでもある。

著者は自分の書評の経験から、読書術を身につけたいのであれば、書評を書く習慣を付けろという。その理由として挙げた次の三つがもっともだと思っている。
・内容をまとめる習慣がつく
・自分にとって印象的だた部分を再確認できる
・その本についての記憶を効果的に残せる

自分もこうやってブクログに読書の記録を残すようにしているが、おかげで読書の質が格段に向上した実感がある。何年も前に書いた本の書評も残っているが、その内容を読むとずいぶんと自分も進化したように感じる。

どうやったら書評家になれるのかや、どうやったらうまい書評が書けるのかというノウハウ本として期待すると、それは書かれてはいるけれどもセンスとコツで、それを誠実に継続すべし、というくらいのことで期待外れに終わるかもしれない。それよりも書評家という職業がどういうものか分かったことが楽しめた点だ。

何よりこの本を読んだ効果としてよかったのが、自分の書評(これを書評と言っていいのであれば)の読者が、未来の自分であることが明らかになったことだ(もちろん自分以外の人にも読んでもらって、いいね!をしてもらえるととてもうれしいのだけれど)。何と言っても読む端からその本の内容など忘れていってしまっているから、ブクログの自分の書評はとても役に立っている。その読者(未来の自分)のために要約し、何を重要だと思い、何を考えたのかを記録するという目的のためにいくつか参考になる点があった。さて未来の自分はこの書評を気に入って共感してくれるだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2020年5月6日
読了日 : 2020年5月6日
本棚登録日 : 2020年5月6日

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