アルジャーノンに花束を

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本棚登録 : 4179
レビュー : 626
制作 : 小尾 芙佐 
schopenhauerさん SF   読み終わった 

 ダニエル・キイスの最高傑作として名高く、ハヤカワSF文庫のオールタイムベストにもランクインし、映画化もされ、「感動の名作」などというコピーが必ずついてまわるこの作品は、根本的に誤解されていると思う。
 一言で言えば、この作品は完璧な差別小説である。
 その差別があまりにも完璧なので、読者のみならずおそらくは作者もそのことに気づいていない。この作品に涙する読者は、自分が属している差別空間に疑問すら抱いていない。
 差別というのはむろん精神薄弱者に対する差別である。
 キイスはこう言いたいのだろう。人間の幸不幸は頭のよしあしで決まるものではないのだと。読者も「そうだそうだ」とうなずいて涙しているのだろう。しかし「そうだそうだ」とうなずいているのは、うなずくことができるのは、少なくともこの作品を読める程度の知能指数を持っている読者だけである。主役である精神薄弱者たちははじめから客席からは排除されている。
 主人公チャーリィ・ゴードンの手記という形式で進行する本書のクライマックスは、チャーリィの頭脳が再び崩壊し支離滅裂な文章を書き始めるそのエンディングにあるだろう。読者はそれを読んで涙する。おそらくは哀れんで。どうしてそれが差別ではないのか。読者も著者も知性の高みから精神薄弱者の哀れを見下ろし、涙している自分に満足して彼らに背を向ける。それは背筋が冷たくなるほど残酷な光景だが、上にいる者はそのことに気づかず、下にいる者にはその光景が見えない。
 この作品の持つ禍々しさにだれも気づいていないという事実がいちばん禍々しい。被差別者を排除しつつ感動の名作として絶賛され続けている不思議な(そして不気味な)作品である。

レビュー投稿日
2019年7月4日
読了日
1999年1月6日
本棚登録日
2019年7月4日
3
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