静かなるドン 1 (マンサンコミックス)

著者 :
  • 実業之日本社 (1989年3月1日発売)
3.70
  • (6)
  • (12)
  • (14)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 88
感想 : 11
4

(10巻)
資料室という閑職に追い込まれたかつての人事主任。それでもいまだに辞職しない理由は現役でいたいから。現役でいれば返り咲く可能性もあるから。それを知った静也は、人間は生き甲斐が必要だと悟る。

役職定年制がある限り、どの会社でも、ミスをしなくても、いつかは最高幹部になる一握りの人達を除くほとんどの人が、責任も負担も軽くなる立場になる。その時にどうやってモチベーションを保てばいいのだろう。

(32巻)
静也は、一流のモデルを使いこなし、デザイナーとして世に認められることが夢だと語る。本作で静也が夢を宣言するのは初めてではないか。

会社をやめればただの人ではなく、一人の人間として独り立ちしたいという静也の思いに共感する。

(46)
結婚は二人だけの事業じゃない。姑や舅、親戚ともつきあっていかなければいけない。

親が借金を抱えるために岬が相手の母親に結婚を反対されて言われる言葉。

ヒトだけだろうな。親が子の結婚に口出しする生き物は。

(62)
人間の幸福は好きな仕事に打ち込めること。アメリカンマフィアとの抗争の合間に久々に出勤して仕事する静也の言葉。

数巻前では、静也ではないが、幸福は好きな女と暮らすことと誰かのセリフがあった。

さらに本巻では、死んだ愛倫の回想で、人生の目的は愛する人と出会うことという彼女のセリフが出てくる。

好きな女と暮らし、好きな仕事ができたらそれは幸せに違いないだろうな。それができている人はこの世にどれだけいるのだろう。

夢に向かって努力するだけでも尊い、生きているだけでも幸せなんだ。給与が振り込まれない中でもトップデザイナーになるという夢に向かって仕事する静也に対し、人は誰しも夢敗れて年老い、嘆くものだと宣告する部長。そこで発した静也の言葉。年老いた時にもそう思える人でありたいな。

(79)
ほとんどの動物は子育てを終えるとすぐに死ぬのになぜヒトは寿命が長いのか。それはヒトは弱く、過ちを犯すので、守る必要があるからだと、秋野の父は言う。子からすれば親の過干渉以外の何者でもない。

(84)
生きてきた証を残したい。そう言って、川西部長は自分史を出版しようとし、静也は自らデザインしたすべての作品を展示した記念館を作ると言い出す。

(人生の、または職業人としての)死期が近づくとこう思うのか。

ありふれた日常こそかけがえのない宝物…。辞表を提出したあとのお別れ会で、出席者全員から慰留されながら静也が発した言葉。光と闇の二面性を持ち非日常の生活がある静也だからこそこうやって思えるのではないか。今日も昨日と変わらない1日が来るという当たり前なこと(何が起こるかわからない中で本当は当たり前じゃないけれど)に感謝することはなかなかできない。

(88)
天下分け目の大戦で静也は秋野のために敗北する。結果的には天下が一つになり、抗争がなくなることになるが、それは秋野の願いであり、秋野の思いに応えるためだけにこれまで静也は邁進してきた。

世のため人のためと言う人でも、腹の中では何を考えているのかわからない。政治家のように。だったら、腹の中を探る意味すらなく、結果的に世の中がよくなってくれさえすれば誰が誰が首相になってもよいのではないか。

自らのエゴのために生き、結果的に世の中がよくなればそれは素晴らしいことだなと思う。人は自らの好きなこと、エゴのために生きるのが健全ではないか。

(89)
鳥羽伏見の戦いでの敗北、榎本武揚率いる幕府艦隊、勝海舟による江戸城無血開城、河井継之助のガトリング砲…。これ以外にも、本シリーズは幕末の歴史人の名前や史実をパロディー化しているが、詰まるところ新撰組をパロった新鮮組は最後は破滅することになるのだろうか。

(93)
人間は生れながらの死刑囚。パスカルの言葉らしい。本作では、所々で名言が散りばめられていて興味深い。

憎しみの連鎖を断ち切るのは赦すことだという静也のセリフがある。ガザ難民のかかりつけ医普及に努める医師、モハメド・マカドマも「平和への鍵は『許すこと』」と言っている。

世界の各地で長引く紛争。日本も韓国や中国に憎悪の感情を向けられている。極めて難しいことだが、世界平和は赦すことでしか解決しないのかもしれない。そんな心の広い人間が増えれば。

(96)
世界を相手にすると話がデカすぎてリアリティーに欠け、どうしても冷めてしまう。

(97)
世界各国で起きている紛争は憎しみの連鎖によるものだとして子分の借りを返そうとすることを諫めようとする静也に対し、愛する秋野を殺されてもそんなことが言えるのかと言い返す鳴門。

許すことが紛争解決の方法だと思うが、自分の最愛の人を失ってもなお許せるかは自信がない。

最愛の人を失った恨みで紛争に参加する者のことを思うと悲し過ぎる。

(98)
叩かれても叩かれても何度でもデザインに取り組むために机に向かう静也。そんな姿に読んでる自分も奮い立たせられる。

彼がそこまで頑張れるのは、向上心はもちろん、根底にはデザインが大好きであるということがあるんだと思う。『のだめカンタービレ』の野田恵も、同じようにピアノに向かい続けていたことを思い出す。

脳科学者・池谷裕二氏が、使命感に囚われるよりも、好きだからという理由によるもののほうが結果がよいという研究成果があることをツイッターでつぶやいていた。

好きなことなら意識的でなく、「無意識に」「いつのまにか」頑張れる。頑張っているという認識も本人にはないだろう。好きを貫くのが一番だと思う。

あのイチローも、野球をめちゃくちゃ好きなんだと言っていた。中村憲剛もサッカーを。

(100)
枯葉は養分となっていつかまた若葉となる。人間の短い人生において成功も栄達も何ほどのことではない。川西部長の言葉。悟りを開いた人の言葉のよう。この人はさえない中間管理職として描かれているが、なかなか他人事とは思えない。

著者は、Wikipediaによれば、短大卒業後、中学校の美術教師を経て、漫画家になったそうだ。この経歴からしてサラリーマン社会やヤクザ社会に詳しくなさそうなのに、これらの実態が深く描かれているのは相当取材したのだろうか。

(102)
愛が世界を不幸にする。愛する者の死が地獄の苦しみを生み、戦争まで招く。妻とのSEXを拒み、人工授精で妊娠させようとすることを批判して愛を説く秋野に対する世界皇帝、リチャード・ドレイク5世の言葉。

光市母子殺害事件で被害者の夫であり父である本村氏はテレビ番組で、加害者が死刑にならずに刑務所から出てきたら自分の手で殺すと言った。愛する人を失った人の気持ちは誰もが似たようなものだろう。

地獄の苦しみは、心の底から人を愛したからこそ生まれる。それがわかっていたら、ドレイクのように最初から誰も愛さない。

(103)
人間は本質的に悲しい存在。誰もが老い、愛する人との別れが待っている。だからといって、失うことを怖れるあまり、人を愛さないのは卑怯だ。みんな耐えて苦しみから逃げないで生きているのだから。

大切な母親の命をマフィアに奪われたドレイクは愛が苦悩と憎悪の源だと悟り、以来妻も愛さず、マフィア同士に殺し合いをさせ、数を減らしていこうとしている。

静也はそんなドレイクの考えを上記のような思いで真っ向から否定する。

以外と深いこの漫画。

(104)
マフィアに殺されるとドレイクから言われた秋野は、運命には逃げず戦うことにしたと言って、龍馬の潔白を訴えるために自ら危険な場所に赴く。

病気や事故、貧困など、人間どうしようもないことはいくらでもあるが、それを運命として諦めたり屈したりせず、希望を持って前向きに生きるべきだと理解した。

(108•完)
この漫画を通して感じたことは、情報戦を制するものが勝利するということだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2018年5月14日
読了日 : 2015年4月14日
本棚登録日 : 2015年4月14日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする