蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2003年6月14日発売)
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感想 : 70
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日本の代表的なプロレタリア作家、小林多喜二の代表作「蟹工船」が収録されています。
プロレタリア文学自体は小林多喜二以前にも存在していたのですが、「蟹工船」が雑誌「戦旗」に連載されたことで、プロレタリア文学が脚光を浴びるきっかけとなりました。
武者小路実篤らの"白樺派"、菊池寛らの"新思潮派"などと異なり、小林多喜二ら"戦旗派"は、低賃金でこき使われる労働者の権利を主張し、現実と立ち上がる力を民衆に啓蒙するような内容となっています。
ただ、小林多喜二氏の作品は、労働者への啓蒙に加えて、共産主義へ先導するような内容となっています。
プロレタリア自体は低賃金労働者を示す言葉ですが、日本のプロレタリア文学は自由競争への警鐘、共産主義あるいは社会主義的の主張が交じることが多いので注意が必要ですね。

収録作は「蟹工船」と「一九二八・三・十五」の二作です。
各話の感想は以下の通り。

・蟹工船 ...
プロレタリア文学の代表的な作品です。
戦旗は三・一五事件がきっかけで作られた合同組織全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関紙として発行されました。
蟹工船は戦旗に連載された作品で、本作により日本中の低賃金労働者は決起し、戦旗はプロレタリアの旗手となりました。
また、本作がにより小林多喜二は後に不敬罪により起訴、投獄されることとなります。

内容は過激で、共産党賛歌がすぎると感じるところもありましたが、命さえも奪いかねない拷問のような労働環境の中、共産主義という夢のような制度に憧憬を抱くのは仕方ないと感じました。
漁獲したカニを缶詰にする蟹工船「博光丸」、オホーツクの極寒の海が舞台となっており、そこでは貧困層からかき集めた労働者に対し、非人道的な酷使がまかり通っています。
特定の主人公はおらず、その船の上での地獄のような有様が書かれた内容となっています。
脚気に侵されて動かない脚を動かし、凍傷で動かない指を動かして働く労働者を様は酷いの一言につきます。
今がどれだけ恵まれた状況であるか、ということを実感できる内容と思います。今が極楽であるというわけではありませんが。

なお、文体は独特で、ストーリーのつながりがぼやけていて、直前まで菊池寛や芥川龍之介を読んでいたこともあってか、思ったより読みやすくないと思います。
普段文学を読まない人が挑戦する場合は少し気合が必要と思います。

・一九二八・三・十五 ...
三・一五事件を題材にした作品。本作も戦旗に連載されました。
題材が題材故に、無産政党や共産主義的な考えが表に出た内容でした。
ただ、共産主義運動家達をある晩、急に検束し、拷問にかけてゆく内容で、特に拷問シーンの比重が高く、読みにくい作品ではないように思います。
特高警察による、善良な市民への不当な拷問描写を克明に書いた本作は、当然、特高警察の怒りを買い、小林多喜二は警察に要注意人物として目をつけられることとなります。

本作も特定の主人公がいるわけではないですが、思想を持って活動をしている人々一人ひとりが主役であるような書き方になっていて、それぞれの人は活動家だが、それに至る生き方があり、生活があり、家族がある。
そんな人々を突然拘束し、目を覆うような酷い拷問にあわせる様が書かれていて、事件の告発という感じを強く受けました。
どれだけ忠実なのだろうか、と思うくらい、拷問描写はとにかく凄まじいです。
その後、小林多喜二自身も拷問死したことを思うと、そういう時代だったんだろうなあと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2021年2月11日
読了日 : 2021年2月8日
本棚登録日 : 2021年1月13日

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