奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)

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本棚登録 : 1215
レビュー : 83
著者 :
制作 : 森見 登美彦 
seismanさん 小説   読み終わった 

太宰治の短編をまとめた『傑作選』。まとめたのは走れメロスを聞いて「恥ずかしくて耳をふさ」いだ、という森見登美彦氏。

最初に収められた「失敗園」を読んで思い出したのは「宮沢賢治」で、最後に収められた「走れメロス」を読んで思い出したのは「雨ニモマケズ」だった、というのが個人的な感想。

「失敗園」は【農作物の擬人化】作品。田舎に住んでいる人間の「あるあるネタ」を読ませるものにした一作。田舎の津軽出身であることをコンプレックスにしている作品が多い太宰治が、こうも生き生きした農作物を書けるのか、と驚きを感じる一作。

「走れメロス」は教科書に載せたくなる【己の弱みに打ち勝った美談】。しかし、この『傑作選』を読んだ上で走れメロスを読むと、太宰治自身が【己の弱みに打ち勝ってこうなりたかった理想像】をこの話に委ねたのかな、という気がしてくる。それは、大吐血をして死を覚悟したとき、来世では「サウイフモノニワタシハナリタイ」と詠んだ宮沢賢治に似ている。

この『傑作選』を通して思うのは、太宰治が己の「よく見られたいという弱さ」を、いかに”嗤い”ではなく”笑い”にできるか、と試行錯誤していた、ということ。主人公はたいていどこか情けないんだけど、そんな話がどこか”笑える”。

もう一つ思うのは、多くの作家が「小説を読むことで『作者の想い』をも読み取ろうとしてきた」こと。太宰治にとって、井伏鱒二は太宰治が『想いを読み取りたい』と願った人で、本著の編者である森見登美彦にとっては太宰治が『想いを読み取りたい』と願った人なんだろう。

「人が小説などの創作物を人に勧めるとき、勧めた人はその作品に自分自身の何かを投影している」というのが持論なんですが、作家自身が多くの作家の読者でありファンだった、ということをこの『傑作選』で強く感じさせられた。小説の読み方が、ちょっと変わった一冊。

レビュー投稿日
2017年8月31日
読了日
2017年8月31日
本棚登録日
2017年8月31日
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