ヤノマミ

著者 :
  • NHK出版 (2010年3月20日発売)
4.27
  • (119)
  • (80)
  • (39)
  • (3)
  • (3)
本棚登録 : 743
感想 : 116
4

ブラジルの奥地アマゾンの保護区に生きる先住民族ヤノマミ。
ヤノマミとは、彼らの言葉で「人間」
ヤノマミ以外の人間の蔑称は「ナプ」
言葉がわからなくても、蔑称の響きというのはわかるらしい。
「ナプ」と呼ばれて、取材陣は悪意を感じたそうな。

未だ、独自の文化と風習を守り続けるヤノマミのとある集落で4回、150日間におよぶ長期同居生活を著者らNHKの一行が送る。
初回は通訳も交えていた。ヤノマミの言葉←→ポルトガル語←→日本語、で二人。
でも二回目以降は通訳もなしで、彼らの言葉を覚えて、ディレクターとカメラマンと、もうひとり三人のみ!
なるべく日本からの物を持って行かないということで、食料もカロリーメイトをこっそりとか、ほんのわずかのみ。
そうしたら、狩りも出来ない一行はあっという間に飢えて、飢餓状態にあるアフリカの難民によく見られるあの下腹だけが突き出した体型になるほど。一日千カロリーくらいしか食べられなかったと。
ムカデは50センチを超えるわ、用足しで繁みに近寄れば毒蛇がいて落ち着けず、下腹がどんどん重くなる日々だとか。

そういう中で、自然と共に生きる人々の生活を追うのだけれど、まったく異なる死生観や、倫理観。
衝撃的だったのは、出産。
これは一行にも衝撃だったから、多くページが割かれている。

出産のとき、妊婦は森にひとりで消えて、赤子を産む(初産の場合は、女達がついていくこともあるよう)。
赤子は、生まれたときには、まだ人間ではない。
精霊が男の体に入って、精子に宿り、女の胎内に入って、赤子に宿る。
生まれた段階では、赤子はまだ、精霊であり、母親が抱きあげることで人間になる。
産み落とした赤子を、女はじっと、物のように見つめる。
十分以上も、表情なく。
そして、赤子を抱きあげれば、集落に連れ帰る。
集落で赤子を抱く女の顔は、母の眼差しになっている。
この赤子は精霊として返すと決めれば、赤子の始末をする。
自ら首を締める等して精霊に返し、蟻塚に切れ目を入れて赤子と胎盤をおさめる。後日、蟻塚ごと焼く。
赤子を連れ帰る場合には、バナナの葉などにへその緒と胎盤を包んで木の枝に吊るし、蟻に食わせる。この蟻とは、ヤノマミの男が生まれ変わるもの。男は蟻、蝿に。女はノミ、ダニになる。

女の選択には、一切誰も口を挟まない。
赤子を人間にするか、精霊に返すかは、女が決める。

日本でも、七歳までは神のうちといって、死んだときには大人のような墓を作らない風習があった。
子墓、捨て墓とも言ったかと。
でもこれは、死んだ場合。
間引きの方が近いかも知れないけれど、もっと、ヤノマミの女達だけが知る別の感覚なのだろう。障害がある赤子だけを殺すわけではないのだから。

ヤノマミでは、死者が出た場合、その人の使っていたものをすべて焼く。
その人が切り払った藪ですら、焼く。
そして忘れる。
決して名前を出さない。
けれど、ヤノマミの女達は、その風習を守れず、死んだ赤子のことを思って夜中に泣く。

集落どうしの諍いで死んだり、毒蛇などにやられて死んだもの――普通の死に方をしたものの遺骨は囲炉裏に埋めて、年に一度、掘り返して、バナナと共に煮る。それを食べる。
これは死者の祭り。
生死が常にそばにあって、回っている。

祭りや狩りや、その他の風習を持つ彼らのもとに、後半では変化が描かれていて。
今まではシャボリという、呪いを唱える儀式で病の平癒を祈っていたけれど、それでは治らない病気にかかった女がいた。
その女の病を、保護区関係の施設づてで街の病院に連れて行く。その女が、手術で治って帰ってきた。
もう、彼らは、シャボリだけに頼らない前例を得てしまった。
そして、先住民族の交渉役として育てられるために街に勉強にいっていた若者が、文明を持ち帰ってくる。ラジオや、パソコンや。

先住民族の中には文明化された集落も多くあって、しかし彼らは、今まで食料を狩りで得ていたのに、狩りをしなくなる。
物乞い。
売春。
そうして、独自の文化も壊れ、廃れていく。

まったく日本と違う風習を知って、驚きながらも感じ入っていたのに、この衰退の兆しを知って、最後はやるせなくなる。
文明化された暮らしは楽だけれども、彼らが持っていた森とのつながり、精霊とのつながりは、なくなってしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文化・社会・民俗
感想投稿日 : 2013年8月9日
読了日 : 2013年8月9日
本棚登録日 : 2013年8月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする