ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)

  • 早川書房 (1982年2月1日発売)
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「俺は神様に一度きいてみたいと思ってるんだ。この下界じゃとうとうわからずじまいだったことを」
「というと、どんなこと?」
そうたずねながら、ホステスは彼の体をベルトで固定する。
「いったいぜんたい、人間はなんのためにいるんだろう?」

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「() ちょっと耳の痛いことを言わせてもらいましょう。お気に入ろうが入るまいが、ずばりこうです―あなたの財産は、あなたの目から見たご自分と、他人の目から見たあなたに関する、最も重要でかつ唯一の決定的要素である、ということ。金を持っているから、あなたは特別な人間なんです。金がなければ、一例をあげると、あなたはいまマッカリスター・ロブジェント・リード・アンド・マッギー法律事務所の古参経営者の貴重な時間を、こうしてとりあげることもできないのですぞ。
もし、あなたがお金を投げだせば、あなたはまるっきりただの人に成りさがってしまうのです。」
 』
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「()-いかにして役立たずの人間を愛するか?
いずれそのうちに、ほとんどどすべての男女が、品物や食糧やサービスやもっと多くの機械の生産者としても、また、経済学や工学や医学の分野の実用的なアイデア源としても、価値を失うときがやってくる。だから―もしわれわれが、人間を人間だから大切にするという理由と方法を見つけられなければ、そこで、これまでにもたびたび提案されてきたように、彼らを抹殺したほうがいい、ということになるんです」

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まるでニコ動のアホでカオスな動画を見ているような爆笑を誘う作品。訳わかんないんだけどなぜか笑えて、なぜか心に刺さり、なぜか現代の何かを痛烈に批判しているようなショックを与えてくれる。
相続した財産によって金持ちだから働かないアル中のローズウォーターは自衛消防団の運営と巷の落伍者からの電話相談及び小切手による無償援助を営んでいる。親戚や一般人からはその“無駄な”行いがやはり理解できず、彼を精神異常者としてみなそうとして、てんやわんやする。

大雑把に括って利益を行動の指針とする人には、彼の“無駄な”行為が理解できない。だが、現代の、実利主義というか、金本位制というか、“それをやるといくらになるの?OR何がどう変わるの?”という錬金術的な価値観を取り払って彼を見れば結構まともなのかもしれない。例えばマザーテレサのような生き様はまさにローズウォーターの実在人物版(資本を金から自分の体におきかえただけ)だけど、結局のところはどうだろうか。

お金というカミさま。まさにカネさま。カネさまの前では万人が平等。この宗教は至ってシンプルだ。何の解釈も定義も必要としない。カネを多く持てばそれだけ富み、カネがかかればそれだけ価値があると誰もが認める。あれば便利。ないと不便。カネさまを篤く崇拝すれば、その恩寵(衣食住から社会的認知からアイデンティティの確立まで)を受けることが出来る。しかしカネさま法治下の人間はその恩寵と同じくらいの束縛に悩まされる。カネさまの御心を失うかもしれないという恐怖にも苛まれる。カネさまを信じない人・持たない人は衣食住含め社会から徹底的に排除される。カネさまは信者を使って彼らを非人間にする。信者としても、カネさまの力に影響されず幸せに生きる人間は、カネさまに東奔西走する自分の存在をちっぽけなものにする脅威にもなりうるから必死だ。

しかしお金の時代はそろそろ終わるんじゃないんだろうかと個人的に思う。んな馬鹿なと思うが、歴史を見れば今まで何度も“有り得ない、不可能だ”と思われてきたことが実現してきたわけで有り得なくも無い。過去は病に翻弄され、王さまに翻弄され、神さまに翻弄され、戦争に翻弄され、そして経済に翻弄され、、、。未解決の部分もあるが幾度も人間は乗り越えてきたんだし。(作品内での小説では人間は自殺する以外死ぬ方法がなくなったので自殺を奨励している。)
“地球が丸い?あんた馬鹿?”とその時代の100人中100人(つまり100%)が信じて疑わなかったことが今の世では“平面な地球世界を亀が支えて、その下を象が支えて、、ってあんた馬鹿?”になっているわけだ。特に閉塞感、が時代の言葉になっているような今は、案外世界を変えていけることが出来ると思う。ミクシィやスカイプなど金にならない行動が増えてきているのもカネさまの持つ求心力が分散しつつある傾向なんでは??

そんなこんな色々刺激を与えてくれるとんでもない作品です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 価値観が揺さぶられる作品
感想投稿日 : 2012年3月25日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年3月25日

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