迷宮としての世界(上)――マニエリスム美術 (岩波文庫)

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レビュー : 8
shihohkanさん 評論-3/文芸.芸術系   読み終わった 

文字どおり「膨大な例証による詳説」―読み通すには大変な労力を要するが、熟読する価値はある。

「蛇状曲線的-痙攣的」

対比-コントラスト-と逆説-パラドックス-の「蛇状曲線様式」による幻視者的な「高速度撮影-像」は、ヨーロッパ精神史の中でいくつかの頂点を閲している。こうした「爆発的に凝固した」頂点の一つがティントレットの傑作、ヴェネツィアのスクオーラ・ディ・サン・ロッコの「キリスト昇天」である。天使の翼の「爆発」に目をとめるがいい。これは全ヨーロッパ芸術の中にみずからの姿に似たものを探し求める一種の「異常-静力学(パラ・スタティック)」である。つぎにやや奥まった画面の中心点を見よう。すなわち「イデア」の世界からきたエーテル様の、テレプラズマ風なものの像-かたち-、さらにまた画面下方に重心をおく古典的構図が右手でなく左手へとずらされている点に注目しよう。すぐれて反古典的なのは天使の足である。それはまるで天使らしい点がないという怪物性を物語るように、エーテル様の中央のものの像をおそろしく非審美的な仕方で脅かしている-左画面の縁の上半-。何という対比、何という独創的な逆説! 対比と逆説はティントレットにおいて、-グレコにおけるとともに-当時のマニエリスムの頂点に達した。
-「キリスト昇天」ティントレット(1518-1594)-

フランスとイタリアのマニエリスムを識っていたグレコは、瑕瑾のない創造的な純粋性のうちに、このヨーロッパ的様式を適用し、ゴンゴラとともに、「形式と内容」のある醇乎たる、幻視者的な一致に到達したのであった。その蛇状曲線様式の傑作「ヨハネ幻視」は、グレコの先行者たちにとってのラオコオン群像のように、後の時代にとってひとつの「原像」となった。その今日の例としては、ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」やマックス・エルンストの「動かない父親の幻視」などが挙げられる。
而して、ドヴォルシャックとともに、こう断言して差し支えないだろう―「芸術的幻想はマニエリスムにおいてこそ、先行する幾世紀の間に創られたもの一切をささやかな序曲と想わせる飛翔にまで高められる」と。
-「ヨハネ幻視」エル・グレコ(1541-1614) -

レビュー投稿日
2011年5月12日
読了日
2011年5月12日
本棚登録日
2011年4月28日
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