表紙裏の扉には、以下のような言葉が踊っている。
<美>とはなにか?絶対かつ完璧な<美>は存在するのか?
<真><善>、<聖>との関係は?――-古代ギリシア・ローマ時代から現代まで、絵画・彫刻・音楽・文学・哲学・数学・天文学・神学、そして現代のポップアートに到るあらゆる知的遺産を渉猟し、西洋人の<美>の観念の変遷を考察。
美しい図版とともに現代の知の巨人、エーコによって導かれる、めくるめく陶酔の世界!
なにしろ、「薔薇の名前」や「フーコーの振り子」、「前日島」などを著した作家で、難解な記号論でも著名な、あのエーコが編集・解説、周到に作られた美術書である。
刺激的で卓抜な構成は見れど飽かぬといった趣だ。
序論の冒頭に置かれた「比較表」なるページ群は、「裸体のヴィーナス」と「着衣のヴィーナス」、「裸体のアドニス」と「着衣のアドニス」、さらには「聖母マリアの変遷」や「イエス・キリスト像の変遷」など11のテーマで、その変遷を一目瞭然に視覚化、意表を衝いた絢爛たる画像アンソロジィとでもいうべきか。
エーコの「美の歴史」ははじめ図書館で借りたのだが、2週間という期限の中でとても消化できるものではない。
それよりも図版の選択と構成は特異で面白いし、解説もエーコならではの世界だし、また随所に引かれた古今の哲人たちの美に関する言辞も巧みに配列されている。
西洋における美の系譜を渉猟するに、一冊の美術書にこれほどよく纏められたものにはなかなかお目にかかるまいから、少々高くつくが購入することにした。
-2006.09.16記
- 感想投稿日 : 2022年10月25日
- 読了日 : 2011年6月8日
- 本棚登録日 : 2010年10月6日
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