[朗々なる老兵]地方政治に長年携わり、57歳にして中央政界に進出した男、野中広務。「オーラル・ヒストリー」の手法を用いることにより、彼が何をどう考えながら地方を、党を、そして日本を動かしていたのかをあぶり出す一冊です。コワモテ、影の実力者といったイメージが先行してしまう方ですが、その意外な一面に驚かされること間違いなしです。聞き手は、日本の政治研究の第一人者である御厨貴など。
政界の最奥部を知る人間だからこそ語れることのできる内容・考えばかりなので、それだけで興味深いことこの上ない。話せないところは見事に応答を避けているなという感じはしますが、それでも野中氏の話は明朗であり、直截的であるように感じられます。時に過去を懐かしみながら、そして興奮した様子を浮かばせながら進めてられていく野中氏の話の様子は、それだけで現代史を彩るとっておきの参考書になるかと思います。
本書から野中広務という人物の核を汲み取るとすれば、「地方」「戦争経験者」「義理」といったところでしょうか。そしてその野中氏の時代の主流を占めていた「人治」に重きを置く政治スタイルは、はっきり言って今の時代では通用しないだろうし、国民からは好かれないだろうなと思いながらも、政治と国民の距離がある程度離れていた時代には、野中氏の政治力もあって「秘技」に近いアートと化したのではないかと感じます。
〜竹下さんが電話をしてきて、「おい、おまえ、出ろよ」と言う。「何を言うてるんですか。私はもう五十七ですよ。いまから出てどうするんですか」と言ったら、「何を言うてるんだい。いまは、何にも知らんやつが出て来るんだ。しかも、親父が東京で家を持って、東京で育って東京しか知らない男が、田舎の選挙区から知ったかぶりをして出て来るんだ。こんなことをしておったら、日本の政治は駄目になる。おまえぐらい地方自治を経験した人間はおらん。頼むからそういうためにやってくれ。出て来い」と言う。〜
称賛というよりも評価したい政治家かと☆5つ
- 感想投稿日 : 2013年9月6日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2013年9月6日
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