[心のみならず理も]迫害に追われた多くのユダヤ人に対し、「命のビザ」を自らの判断で発給し続けたことで名前が広く知られる杉原千畝。そのエピソードの故に、ヒューマニストとしての側面が強調される一人の外交官の姿を、卓越したインテリジェンス能力という側面からもあぶり出していこうとした意欲作です。著者は、杉原千畝に関して大学時代から研究を続けてきたという日本外交史の専門家、白石仁章。
少し白石氏の筆に熱がこもり過ぎている感は否めませんが、本書のおかげで杉原像はより鮮明、かつ実像に近いものになったように思います。カウナス勤務に至るまでの杉原氏の歩みと合わせ、今まであまり語られてこなかった「命のビザ」に関する謎の解明にも具体的に踏み込んでおり、大変読み応えがありました。
日本ではあまり知られていない、第二次世界大戦期における東欧事情を学ぶことができるのも本書の魅力の1つ。特に、バルト3国と言われるエストニア・ラトビア・リトアニア、そして独ソ不可侵条約で日本とともに多大なマイナスの影響を被ると当時指摘されたポーランドに関する情報は、それだけで何冊もの本が書けるのではと思わせてくれるほどでした。
〜史料が語る杉原千畝の姿、それは従来語られてきた偉大なヒューマニストの姿を否定するものではない。むしろ、偉大なヒューマニストの側面に、稀代のインテリジェンス・オフィサーの姿が加わってこそ、より鮮明に杉原千畝という人物を描き出せるのではないかと思う。〜
日本で公開中の映画『杉原千畝』(そして同時にヒットしている『海難1890』)を観てみたい☆5つ
- 感想投稿日 : 2015年12月11日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年12月11日
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