一四一七年、その一冊がすべてを変えた

  • 柏書房 (2012年11月1日発売)
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[逸れて、乗る]時は1417年。イタリアの教皇秘書を務めたこともあるブックハンターにより「発見」された古代ギリシアの作品『物の本質について』は、写本の形を経て次第に中世キリスト教社会に影響を及ぼし始める。無神論や現世主義を先取りしたようなその一冊は、ついに価値観の劇的な変換への導き手となり......。中世と近代を分けた偶然をスリリングに記し、ピューリッツァー賞を受賞したノンフィクション作品。著者は、シェイクスピア研究の第一人者でハーバード大学で教鞭を取るスティーヴン・グリーンブラット。訳者は、ノンフィクションの快作の翻訳を多く手がけている河野純治。原題は、『Swerve: How the World Became Modern』。


知そのものに焦点を当てた異色の一冊として高く評価できるかと。本書中の主役とも言える『物の本質について』が書かれ、読まれた背景、さらにはそれが及ぼした影響を縦糸で紡いでいくと、見事に中世から近代へ"Swerve(逸脱)"が果たされた足跡がわかり、知的興味が絶えず刺激された読書体験でした。


ルネサンスの幕開け前の中世キリスト教社会、特にローマの教皇庁を中心とするそれがどのような世界であったかを覗くことができるのも本書の魅力の一つ。現実とここにはないどこかとの葛藤に悩みながら、それでも否応なくそのどこかの方へと惹かれてしまう人間の、雄々しくも切ない感情がブックハンターであるポッジョの歩みによく表れており、一人の人間をめぐる作品としても十二分に楽しめました。

〜ここで言う自由は、政治的自由とか権利の概念、言いたいことをなんでも言える許可、好きな場所へ移動できる能力などとは関係がない。むしろ世間の重圧を逃れて内向し-ポッジョ自身は野心を持って世間にかかわっていたが-別個の空間にすっぽりと身を潜ませる経験のことである。ポッジョにとっての自由は、古代の本に没頭することだった。「私には本を読む自由がある」〜

私もその自由を奪われない一年にしたい☆5つ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月4日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年1月4日

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