家守綺譚 (新潮文庫)

4.15
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本棚登録 : 6290
レビュー : 929
著者 :
佐藤史緒さん 現代日本文学   読み終わった 

なんとも不思議な読み心地の本だ。
ふわふわしているというか、飄々としているというか。
浮世離れしているけど、俗世を超越した高みにあるわけではなくて、むしろ土っぽい匂いのする物語だ。
水面にたゆたう睡蓮みたいに。

明治時代のとある一軒家が舞台である。
駆け出し作家の綿貫征四郎は、ふとした縁から、大学時代の親友、高堂の家にひとりで住むことになる。
高堂は数年前、ボート部の活動中に消息を絶ち、遺体はあがらぬものの既に故人とみなされていた。

その家では奇怪なことが次々と起こる。
サルスベリの木に恋慕されたり、河童が庭に迷いこんだり。
今は亡き(はずの)高堂が、床の間の掛け軸の中からボートを漕いで出てきたり。
綿貫が珍事・珍客に生真面目に対応する傍らで、季節は淡々と移ろってゆく。
そういう物語である。

一種の怪異譚だが、おどろおどろしい感じは全くない。
河童も竜もカワウソも、はては神々までも、まるで風景の一部のように、何食わぬ顔で日常に溶け込んでいる。
人々も「そういうものだ」と、ごく自然にそれらを受け入れる。
知識人の綿貫より、庶民代表たる隣家のおかみさんの方が、どっしりと腰が座っているのが可笑しい。

百日紅、都わすれ、ヒツジグサ、ダァリヤ…
日本人の遺伝子に刻み込まれた原風景。
頁を繰るたび外の喧騒が遠のき、時間がゆったりと流れていく。

熱いほうじ茶が飲みたくなった。

レビュー投稿日
2017年9月3日
読了日
2016年3月9日
本棚登録日
2016年3月4日
23
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『家守綺譚 (新潮文庫)』のレビューへのコメント

nejidonさん (2017年9月3日)

佐藤史緒さん、こんにちは♪
感動が伝わる素敵なレビューですね。
私が読んだのはずいぶん前ですが、影響を受けてカラスウリを庭に植えたものです・笑
今夏はおびただしい数の花が咲きました。
でも異界に誘ってはくれません。
私にはそんな才能はほぼゼロらしいです。

佐藤史緒さん (2017年9月3日)

nejidonさん、コメントありがとうございます!
カラスウリいいですね〜! 夜だけ咲くって本当ですか?
私は今年お向かいのお爺さんの庭から都わすれの花を株分けして頂きました。やはりこの本を思い出してワクワクしながら植えました。
短い期間でしたが梨木先生の書いておられるとおり、濃紫の可憐な花が咲きました。
nejidonさんと同じく、異界には行けませんでしたが…(笑)

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