アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

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本棚登録 : 8994
レビュー : 1027
制作 : Daniel Keyes  小尾 芙佐 
佐藤史緒さん SF   読み終わった 

Flowers for Algernon(1959年、米)。
精神遅滞の青年が、最新治療で天才的な知能を手に入れる話。

主人公の手記という形で一人称で書かれる物語は、ひらがなばかりの稚拙な文章で始まる。主人公の知能の発達に従い、次第に文章も洗練されていき、遂には天才ゆえの狂気すらにじませるようになる。子供のように純真だった主人公が、自分を取り巻く世界の事情を知るにつれて、傷つき自暴自棄になっていくさまが痛々しい。さらに終盤、治療効果の消退により、その悲劇性はピークに達する。

…ここまででも十分にドラマティックな物語である。しかし、ここで物語が終わっていたなら、この小説は単なるSFとして扱われ、ここまで多くの人に愛される名作にはならなかっただろう。この作品の真価は、ここから先である。

否認、怒り、抑うつ、自暴自棄…。長い苦悩の果てに、主人公は失われていく自己をありのままに見つめられるようになる。自分を捨てた母、名誉欲に走る医師、去っていった恋人。全ての事情を理解したうえで、それでも彼は世界を否定はしない。全てを見つめながら、最後には慈愛さえ込めて、「それでも、世界を見ることができてよかった」と言い残し、静かに舞台を降りてゆく。

この物語が時代をこえて人々に愛される理由は、終盤のこの受容のプロセスにあると思う。何も知らぬままに無垢でいることはたやすい。よごれた世界に触れてなお、ピュアな心を失わなかった主人公だからこそ、私達は愛しく思い、祈りにも似た気分で本を閉じることができるのだろう。大人のための童話だと思う。

レビュー投稿日
2012年3月21日
読了日
1991年月
本棚登録日
2012年3月21日
14
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