中学生の頃、好きな場面は暗唱できるほど繰り返し読んでいた。それまで漫画しか読まなかった私に小説の魅力を教えてくれるとともに、その後の価値観の形成に多大な影響を与えてくれた作品。
当時、同級生の間ではライトノベルが流行していたが、その多くは内容が貧困で興味が持てず、さりとて純文学を味わうには人生経験が足りず、私は「小説なんてつまらない」と思い込んで、漫画ばかり読んでいた。そんな私が、某アニメ情報誌に特集されていたことがきっかけで興味を持ち、軽い気持ちで手に取ったのがこの作品だった。
そしてまず、序章で大きな衝撃を受けた。自分の知らない世界がそこにあった。漫画では到底不可能な、空間的時間的に壮大なスケール。さらに読み進めていくうちに、完全にその世界観の虜になっていた。宇宙艦隊の戦術戦略、国家規模の権謀術数、主要登場人物はもとより、脇役たちにまで及ぶ生き生きとした愛すべき人物造形。そして、あの独特の文体…。「華麗な文章」というものが存在するのだと、読書子として未熟な私はそのとき初めて知った。
当時の私には難解な表現が多く、当初は単語の解読にかなりの時間を要した。国語辞書を片手に、ぶっとおしで8時間かけて第1巻を読破したのは、今では良い思い出だ。巻を重ねるにつれ辞書は必要なくなり、いくらか短時間で読めるようになった。こうして全く副次的な効果として語彙が増え、その後は読書が容易になり、結果的に読書が好きになった。ある意味で人生を変えてくれた、思い入れの深い作品なのである。
それから、歴史の面白さを教えてくれた点も忘れられない。架空の物語とはいえ、作者の歴史に対する造詣の深さゆえに、歴史のダイナミズムが圧倒的なリアリティをもって迫ってくるのが、この作品の大きな魅力だ。歴史の流れの中で、大局的な視野で物事を把握するのが如何に重要であるか、「後世の歴史家による記述」という独特のスタイルを採ることで、言外に教えてくれるのだ。
さらに、「賢明な君主による専制君主制と、衆愚と化した大衆による民主共和制では、どちらが好ましいか?」という思考実験も試みられている。歴史の中で人々がどのようにして「自由」を勝ち取ってきたのか、そして、どのような場合にそれを自ら放棄するのか。自由には常に責任が伴う。「煩わしい責任と共に自由を放棄する権利」は、認められるべきか否か。作者の答えは限りなく「否」に近いが、自分ならどう思うか、読みながら考えてみるのも一興だろう。
全巻あわせると相当なボリュームなので、忙しい社会人には薦めにくいのだが、時間にゆとりのある学生さんには、頭の柔らかいうちに是非とも読んでもらいたいと思う作品である。
- 感想投稿日 : 2008年10月25日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2008年10月25日
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