「天動説を信じていた時代の人々の世界の捉え方」に焦点を当てた珍しい絵本です。
地球が太陽の周囲をまわっていることは、今では小学生でも知っている常識です。物知りな子なら、ガリレオが地動説を唱えて宗教裁判にかけられたことや、その350年後、ガリレオの正しさを認めたキリスト教会が彼の有罪判決を取り消したことまで、知っているかもしれません。
科学史上もっともドラマティックなこのエピソードは、ガリレオを科学好きな子供たちのヒーローにしました。しかし、それはともすれば、ガリレオの知見を受け入れられなかった昔の人々を見下してしまう結果になりがちです。「そんなこともわからなかった昔の人は、なんて馬鹿だったんだろう」と。
それではいけない、と作者は絵本を通して私たちに語りかけます。自分で宇宙を観測したわけでもないのに、「地動説は当たり前」と言うのでは、ガリレオを裁判にかけた人々と何も変わらない。それでは天動説の時代から何も学んでいないことになってしまう、と。
「昔の人びとがまちがっていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけません。今日の私たちが、私たちにとっての真理を手に入れるために、天動説の時代はどうしても必要だったのです。」(あとがきより)
なぜ昔の人は天動説を信じていたのか。なぜ地動説を受け入れるまでに、これほどの犠牲と時間が必要だったのか。その歴史を知って初めて、地動説を理解したと言うことができるのです。地動説を唱えて火あぶりにされたブルーノのような犠牲者を再び出さないためにも、歴史を知ることが大切なのだと作者は強調します。
科学の進歩がスピードを増し、10年前の常識が今日には通用しなくなる、そんな時代に私たちは生きています。私たちに必要なのは、知識そのものよりも、知識の信憑性を見極めることのできるリテラシーと、変化を受け入れることのできる柔軟性なのかもしれません。この美しい絵本は、そう諭してくれているように思えます。大人が読んでも面白い、奥の深い絵本です。
- 感想投稿日 : 2017年8月27日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年8月26日
みんなの感想をみる