中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 (NHK出版新書)

  • NHK出版 (2016年6月11日発売)
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2016年NHK出版。中東研究の専門家による中東情勢の概略図。サウジアラビアがイランとの国交断絶をした経緯からはじまる。中東には国と国もどきが存在するという。国とはトルコ、イラン、エジプト。国もどきはそれ以外。WW1後のサイクスピコ協定によって英仏による支配領域ができてそれを踏襲しただけの民族・国体が不安定な部族連合がその実態。
以下イラン、イラク、シリアについてメモ

イラン
2015.7月核合意により向こう10年査察を受けるかわりに経済制裁を解除。合意にくわわったアメリカとの関係は半世紀余り複雑な経緯をへてきた。以下アメリカとの関係。
20世紀初頭、石油が発見されイギリスが独占支配をはじめる。戦後公平利益を求める声があがりはじめ、1952年モサデク首相が国有化を強行。各国はイラン石油のボイコットで経済的な制裁をくわえ、ついで53年には英米の諜報機関がクーデタをおこし政権を転覆させる。諜報の実施本部には大使館がつかわれ、79年のイラン革命時に学生により444日占領された(これがアメリカとの関係を決定的に悪化させる)。モサデクをたおしたあとシャー王制をとった政権は米イスラエルの支援で秘密警察をおき政権に批判的な世論を弾圧した。この苦い記憶からイラン革命時には革命を指導した最高指導者ホメイニの直属機関として革命防衛軍を国軍とはべつに組織することになる。ちなみに革命にかつぎだされたホメイニは当初飾りのつもりだったが、意外に政治的な手腕を発揮して現在のような議会・大統領とはべつの最高責任者地位を獲得することになる。
アメリカとの関係にもどると、その後イランはアメリカに歩み寄っている。86年イランイラク戦争でアメリカレーガン政権はおもてだってはイラクを支持してきた。しかし一方でレバノンのヘズボッラーにとらえられた人質救出のためヘズボッラーに影響力を持つイランと接触し武器をうっていた。なおこの金はニカラグアの反米ゲリラ「コントラ」にまわし「イランコントラ事件」として大問題となる。次のブッシュ父のとき、就任演説であゆみよりをほのめかしたことに期待してレバノン人質救出を演出、次のクリントンでは石油開発利権交渉をもちかけ(直前になって議会の反対で破たん)、つぎのブッシュ子では911テロ報復のアフガン空爆のためにアフガン国内の情報を提供、平定後の指導者としてイランがこがいにしてきたカルザイを据える。ここまで貢献してきたにもかかわらず、ブッシュは02年イランを悪の枢軸国となざしする。同年には核関連施設資料がリークされ国際的に孤立し、05年に成立したアフマディネジャド大統領の強硬路線で孤立が一層深まる。13年成立した穏健派のロウハニで関係が改善しオバマとのあいだで核合意にいたる。

イラク
3つの勢力がある。北にクルド人、中部にスンニ派、南部に最大多数シーア派。少数のスンニ派がほかのふたつを抑え込む独裁体制をきづきよくもわるくも安定していたが、イラク戦争をきっかけに民族宗派間対立が激化した。03年に戦争をはじめ、将軍ペトレイアスは現地の混乱を観察し湾岸戦争の英雄パウエル元陸軍大将(黒人初の参謀本部議長)の「パウエルドクトリン」を批判。このドクトリンはベトナム戦争をくりかえさないために考え出された。「国民の支持する明確な戦争目的」「圧倒的な戦力を一気に投入」「出口戦略」。ペトレイアスは冷戦後のあいつぐテロでのゲリラ戦には合致しないとして批判し、原住民との交流・理解が不可欠と説く。イラク戦争がはじまり、最大多数のシーア派政権が誕生するとそれまで政権にあずかっていたスンニ派が不満を持ち始めゲリラに加担するようになった。ペトレイアスは彼らに仕事を与え懐柔することで被害をへらすことに成功。しかし2011年米軍が撤退したあとマリキ政権はシーア派優遇措置をとりスンニ派はISの勢力にひきよせられていく。

シリア
一次大戦後フランスが支配をはじめる。近代的な軍隊を編成するにあたって多数派のゆたかなスンニ派は軍隊生活をきらったが、貧しいシーア派(アラウィー派。アラウィー派についてはくわしくわかっていないがシーア派といわれることがある)などマイノリティが士官学校からはじめて社会階級をあがっていった。前大統領のアサド父がそうである。アサドは1970年にクーデタで大統領に就任し、社会主義的政策をとりかつ世襲制を採用し独裁体制を確立した。00年から二男のアサドが独裁政権につき、アラブの春2011年から内戦が勃発。デモ隊に発砲し混迷が続く。人口2000万のうち半分が難民化していて、うち500万が国外に流出している。
シリアの内戦は政権と反政府勢力のあらそいだが、そこにISがくわわってややこしい。アサドは国際世論にたいして、政府vs反政府勢力とはいわず、政府vsISという構図を好み独裁体制から目をそらそうとしている。反政府勢力は3つある。非宗教系の自由シリア軍、アルカイダ系のヌスラ戦線、IS。アサドは自由シリア軍を攻撃する一方、ISから石油を買うなど支援のうごきもみせている。上に書いた国際世論むけの構図をたもつために一定程度ISの勢力を温存する意図があると思われる。
ISは2017に崩壊したが、タリバンアルカイダなど息の長い武装勢力をみると今後どうなるかわからんので一応かいておいた。といってもISについては詳述されているわけではないので池内恵「イスラム国の衝撃」が詳しい。シリアはアメリカ軍の空爆+クルド人地上部隊が成果を上げてクルド人自治区のうごきなどがでてきて、こんどはとなりのトルコ(国内に人口比4分の1のクルド人をかかえる)がこのクルド人にたいして攻撃をはじめたりと依然として混乱中。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年5月16日
読了日 : 2018年1月23日
本棚登録日 : 2020年5月16日

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