茨木のり子集 言の葉2

  • 筑摩書房 (2010年9月1日発売)
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本棚登録 : 214
感想 : 15
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&Premiumの本特集号にて、「忙しいときこそ詩集を」というアドバイスに合わせて茨木のり子さんが紹介されており、買ってみた。

「小説に対して、詩の言葉は短くてダイレクト。リズムもいい。ふと誦じたりすれば、生きるうえでの杖になり、心の特効薬になるーーそんな自分だけの詩を見つけてほしいです。」&Premium 江南亜美子

たしかに、詩は言葉の密度が濃く、少しの時間でそんな言葉に出会えるから幸せだ。

本書は前半が詩、後半がエッセイという構成。エッセイでは、同時代に活躍された文化人(主に詩人)のことが生き生きと描かれている。また著者が詩人であるからこそ、日本語についての考察も豊富で楽しかった。

収録詩集
・人名詩集
・自分の感受性くらい
・寸志

特に好きだったエッセイ
・山本安英の花
・美しい言葉とは
・ハングルへの旅

読み進めるにつれ、この本にも収録されている『花ゲリラ』という詩の言葉が私の頭の中で反響していくようだった。人が何気なく言った一言が、本人は忘れてしまうような他愛のないものでも、他人にとっては宝物のようであり得る、という趣旨の詩である。

『花ゲリラ』

あの時 あなたは こうおっしゃった
なつかしく友人の昔の言葉を取り出してみる
私を調整してくれた大切な一言でした
そんなこと言ったかしら ひャ 忘れた

あなたが 或る日或る時 そう言ったの
知人の一人が好きな指輪でも摘みあげるように
ひらり取り出すが 今度はこちらが覚えていない
そんな気障なこと言ったかしら

それぞれが捉えた餌を枝にひっかけ
ポカンと忘れた百舌である
思うに 言葉の保管所は
お互いがお互いに他人のこころのなか

だからこそ
生きられる
千年前の恋唄も 七百年前の物語も
遠い国の 遠い日の 罪人の呟きさえも

どこかに花ゲリラでもいるのか
ポケットに種子しのばせて何喰わぬ顔
あちらでパラリ こちらでリラパ!
へんなところに異種の花 咲かせる  」

昨年は良い時と悪い時のアップダウンが激しくて、元気がない時間が正直長かった。でも振り返ると、友人知人の小さな言葉にたくさん励まされ、本で出会う言葉にハッとさせられ、だからこそ、生きられた。「だからこそ 生きられる」という言葉に実感と深い共感を持って出会えたのも、幸せな瞬間だった。

後半のエッセイを併せて読むとよりご本人の実感にも触れられて味わい深くなる。ご本人も人間が好きで言葉が好きで、だから交流が好きなんだなということを、全体を通して感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 詩歌
感想投稿日 : 2022年1月23日
読了日 : 2021年11月27日
本棚登録日 : 2021年10月25日

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