台湾生まれ 日本語育ち (白水Uブックス)

  • 白水社 (2018年9月14日発売)
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台湾で生まれ、日本語で育った著者の、母国語とは何か?自分は何人なのか?といったアイデンティティを巡る思索を綴るエッセイ。

「自分たちは台湾人だけど、娘たちは日本人。それが誇らしい」という、大きく構えたご両親のおおらかさがとっても素敵で、境界を生きる自己の存在を自己肯定的に語る文章が嬉しくて、琴線に触れるものがあり、涙を浮かべながら読んだ。

アイデンティティの話なので、当然家族の話が多くなる。
著者の祖母は、日本統治時代に日本語を学んだ世代。母は、中華民国設立後に、中国語を学んだ世代。土着の台湾語と別に、日本語と中国語が絡む台湾の多様な言語風景が伝わってくる。

話は私の思い出話に移って、かつて台湾人の友人の結婚式に招待いただいて台湾に行った時、その後新婚夫婦が台湾旅行にアテンドしてくれたことがある。街中で「おでん」という言葉に出会った時「日本語と似てる食べ物がある」と面白がったら、「おでんは日本統治時代に台湾に伝わった、正真正銘の日本語だよ」と言われ、日本が統治者であった時代のことに思いを馳せなかった自分を恥じた。統治者であった日本という歴史を日本人の私は背負っていて、例えそれが私が生まれる前の話だとしても、それは決して古い過去ではない。された側はよく覚えている。謙虚に歴史に向き合わなければ、と思ったんだった。
本書を通して台湾の歴史にも少し触れることができ、勉強になってありがたかった。

また一方で、著者をアイデンティティ探索に向かわせたのは、日本人一般の彼女への接し方ーー母国語は何かと問い詰める、そこには母国語は一つの言語であるべきだという固定観念と、日本語は日本人のものだという固定観念が顔を覗かせるーーにも原因があると思う。
グローバル化で人が混ざり合う現実を生きている私たちは、日本語は日本人のものだというようなステレオタイプを捨てて、日本語を人生の中で学ぶ機会に恵まれたすべての人の言語世界に堂々と日本語が組み込まれるようにそれを祝福すればいい。そして、私も私が人生を歩む中でたまたま偶然に出会った全ての言語を自分の言葉として受け入れてそれら言語への愛着に素直でありたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2023年8月23日
読了日 : 2023年8月23日
本棚登録日 : 2023年8月23日

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