美食亭グストーの特別料理 (角川ホラー文庫)

  • KADOKAWA (2019年5月24日発売)
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本棚登録 : 96
感想 : 10
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料理ものでホラー文庫とは?
と読む前は不思議に思ったものだが、なるほど。
いざ読んでみると、この異質な雰囲気はホラー文庫向きかもしれない。
出てくる料理は(一部例外はあるが)美味しそうだし、実際においしいのだろうが、食べる人たちが基本的に難ありで不気味さが漂う。
明らかに不気味という訳ではない。
見た目は普通に一般人なのに、中身が普通ではない。
何かしら傷を抱えていたり、トラウマとなってしったりで心が病んでいる。
父へのサプライズとして行ったことが怖い。
本当の不味い料理を追い求めた男のトラウマが怖い。
彼女が食べさせられたすっぽんスープのその正体が怖い。
外から見た印象の何と不確かなものかと。
この普通だと思ったら普通じゃなかったというこの不気味さ、下手な心霊ものより怖い。
何せ、実際にいそうだから。
よき隣人だと思っていた人が、実はこういう人だったなんて、知りたくもない事実だろう。

そういう意味では、料理長の方がよほど分かりやすい。
最初から変人で悪魔的だったから、裏がない。
最初から不気味さたっぷりだったので、他の登場人物より安心感が持てたほど。
(裏切りがないという意味で)

ただこの作品が稀有なのは、後半からがらりと印象が変わること。
料理長と大学生バイトの仲が深まり、料理長の過去が分かってくると、ホラー的不気味さが鳴りを潜める。
代わりに本当の家族とは何かを考えさせらる物語へと変貌を遂げる。
この変化には驚いた。
不気味な料理ものを読んでいたと思ったら、泣ける感動系になろうとは。
どうしてこうなった。
こういう裏切りは想定していなかった。
お蔭で、料理長の株が爆上がりした次第である。
あれ?

ともあれ、不気味さとミステリ要素もあり、最後は家族愛とは何ぞやと語り掛けてくる内容盛りだくさんな作品だった。
グロさはそうないが、ゲテモノ系に耐性ないと雰囲気的にしんどい部分もあるので、苦手な方は注意の上読むといいかと。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(作者名:ま行)
感想投稿日 : 2020年10月17日
読了日 : 2020年10月15日
本棚登録日 : 2020年10月15日

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