動物地理の自然史―分布と多様性の進化学

  • 北海道大学出版会 (2005年5月25日発売)
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北海道大学図書刊行会の自然史シリーズの一冊.主に日本および東アジアが主題の動物地理学を題材にした論考集である.最近の分子遺伝学的な分析と,系統分岐に関する理解や技術の進展を背景にこれまでの通説が覆っている部分が結構あって堅い印象より遙かに面白い.
爬虫類両生類の研究からは日本の南西諸島の成り立ちがかいま見える.(この辺は地学的にはまだ定説がないこともあり興味深い)

哺乳類の研究からはニホンジカの分析が特に面白かった.そもそもニホンジカというのは非常に分布の広い種であり,エゾジカやヤクシカなどすべてこの中の亜種なのだそうである.分子的に調べるととホンシュウジカは実は東西で大きく異なっており(東日本のものはむしろエゾジカに近縁)いったん津軽海峡と対馬海峡ができたあとに氷結した海を北海道から渡ってきたという仮説が展開されている.

そのほかの主な項目としては,ヒグマについては分子的な証拠から北海道に3派にわかれて渡来してきている様子が図示されている.トガリネズミは大きく分けて2つのグループが互いに競争しながら広がっている様子と津軽海峡の成立と大陸からの移入の様子が描かれる.ホストとパラサイトの系統地理も齧歯類を題材に解説がある.イノシシについては考古学的な遺物から探られる.分子をいうツールを手にして意気盛んな研究者の様子がうかがえ,今ホットな分野という勢いを感じさせる.

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感想投稿日 : 2006年6月8日
本棚登録日 : 2006年6月8日

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