雁 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1948年12月7日発売)
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感想 : 134
3

最近現代小説ばかりだったので、久々の近代小説であった。初、鴎外作品。
100年も前の作品だが、とてもそうとは思えない。人の感情の機微というのは、いつの時代にも変わらないのかも知れない。

読んでいて感心したのは、ごく普通の、言ってみれば地味なお玉の心情の微妙な心の動きを描いている点だ。
無邪気で純粋な少女であったお玉が、世の中の苦みを知り、ドラマチックな出来事ではなくあくまで日常の生活の中で徐々に「女性」へと変化していく様子が、とても繊細に描かれている。
鴎外は一体どれだけの女性と交際してきたのだろう、と思ってしまうほどだ。

タイトルの「雁」に込められた意味も色々と分析されているようだ。
中盤までは全く登場しないのだが、終盤、お玉と岡田の運命がすれ違う分岐点として「雁」がとても象徴的に現れる。この雁の意味するところは多くの解釈があるところだが、渡り鳥である雁が死んだ、ということは、洋行した岡田の運命を暗示しているような気もしてしまう…。あくまで個人的な印象であるが。
また、お玉のその後に関しては、「僕にお玉の情人になる要約の備わっていぬことは論を須たぬ」(p128)と言いながらも、僕がお玉に好意を抱いていたことは明らかであり(p115)、「僕」が岡田に対して劣等感を抱いていることはなんとなく読み取れるから、どんな形にせよお玉とお近づきになれたことは確かだろう。
そう考えると、本作は単なる哀愁に溢れた淡い恋愛話というだけではない、どこかひんやりしたものを感じさせる。最後のたった一段落のあるなしで、物語の印象が大きく変わり、思わずウーンと唸らされた。。

馴染みの上野が舞台となっていたこともあり、情景を思い浮かべながら楽しめた。
この本を手にしながら上野を歩いてみたいと思う。

レビュー全文
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読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: カ行
感想投稿日 : 2016年1月26日
本棚登録日 : 2016年1月26日

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