舞踏会へ向かう三人の農夫

  • みすず書房 (2000年4月14日発売)
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感想 : 39

 主人公の私はある日、電車の乗り継ぎで立ち寄ったデトロイトの博物館で、「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題した古い写真に出会う。そしてその瞬間から、20世紀全体という時間軸と、アメリカとヨーロッパを包含する広大な場所を舞台に、この3人は誰で、なぜその写真が撮られたのかという謎を解く、長い物語が始まる。
 私、3人の農夫(アドルフ、ペーター、フーベルト)、そして当初は写真との関わりが見えないピーター・メイズ。時代や場所を行き来しながら進行する彼らの物語を追いかける行為(つまり本書を読むこと)は、読者にとってはあたかもジグゾーパズルのピースを1つひとつはめていくような作業だ。そして最後のピースがはまったとき、読者はパズルの表面に、「20世紀という名の、混じり気なしの暴力行為」が浮かび上がるのを見届けることになる。
 小説という道具立てを使い、「(独立した)存在というものはありえない。個々の存在物はすべて、あくまでそれと宇宙全体との絡み合いから理解されねばならない」という哲学者ホワイトヘッドの箴言を引きながら、人間とは何かという問いに答える新機軸を、著者は本書で提示して見せている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸
感想投稿日 : 2013年7月25日
読了日 : 2013年7月25日
本棚登録日 : 2013年5月7日

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