白の鳥と黒の鳥 (角川文庫)

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本棚登録 : 873
レビュー : 71
sigatuyukaiさん  未設定  読み終わった 

いしいしんじさんの短編集です。
なんか……いいんだよ……いいんだって………!
これじゃ説明になってないな……あーでもこの独特な読後感はちょっと言葉にしにくいです。
物語の芳醇な要素を抽出凝縮し奇想を贅沢にぶちこんだ聖俗清濁併せ呑む短編が収録されてるのですが、いしいしんじさんはファンタジー要素をまるっとぬいた現実の悲哀を描かせても上手い!と炙ったスルメのごとく噛み締めました。
滑稽味のある人物造形がその裏にひそむ哀しみを引き立てるというか……ひょうたん島さながら泣くのはいやだ笑っちゃお的な人の日常の一瞬が切り取られていて、胸が詰まる。
中年にさしかかったニューハーフの孤独な暮らしを描く「紫の化粧」、河原の彼岸と此岸に分かれてのホームレスのカラオケ合戦「薄い金髪のジェーン」など、もうね……こういう話も書けるのかと懐の広さに驚かされました。

人は本質的に汚いということ。
でもそれだけじゃないということ。

居場所を失って河原に流れてきたジェーンが呟く言葉、「俺、ず、ずっとこの着物着てるよ。そ、そうすりゃきっと、も、もっとちゃんと、み、みんな俺のこと好いてくれんだろよ」がたまらなく切ない。
「肉屋おうむ」の息子が死の床の父の耳元で囁く言葉、「カラタチとブルーベル」のおまじないに目から涙がこぼれた。
そんないい話があるかと思えば、「赤と青の双子」に出てくる奈津川家さながら異形の家族にぎょっとする。
跡継ぎの長男、父に疎まれる白痴の次男、赤男青男とぞんざいな名前を付けられた末の双子のみ溺愛する母、酒乱の父。
家の呪縛から逃れられないと悟った長男の最後の言葉がひしひしとおそろしい……背筋が冷える短編です。
「すげかえられた顔色」は世にも奇妙な物語で実写化されたらさぞ怖そうなシュールな一編。「紅葉狩り顛末」の大胆な奇想、老マタギ二人のかっこよさに痺れた……!
「ボーリングピンが立つ場所」は傑作です。

レビュー投稿日
2017年8月24日
読了日
2017年8月24日
本棚登録日
2017年8月24日
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