ふしぎの国のアリス (集英社文庫)

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本棚登録 : 441
レビュー : 48
制作 : Lewis Carroll  北村 太郎 
sincosvsignさん  未設定  読み終わった 

 そこら辺にあった長い穴を抜けるとふしぎの国だった。
 不朽の名作、数多の国で愛される児童文学の代表作。少女アリスの冒険ファンタジーの第一作。
 中学生の頃、『鏡の国のアリス』を読もうとして挫折したが、この作品は最後まで読むことができた。『ふしぎの国のアリス』を読むには、ナンセンスを受け入れる度量が必要だ。「訳が分からねぇ」と投げ出すのではなく、「訳が分からないままで良いんだ」と受け入れなければならない。ただこのナンセンスがどれほど面白いのかは十全には理解できない。『ボボボーボ・ボーボボ』のナンセンスギャグは、子どもの頃見ておかし過ぎて笑った記憶があるが、大人になった今では狂気の側面を強く感じ取ってしまう。アニメ化された『ボボボーボ・ボーボボ』は、原作よりも流血描写を抑え公衆向けに制作されておきながら、「見ていると頭がおかしくなる」という苦情が来たという。『ふしぎの国のアリス』はそこまでギャグに特化していないが、笑いどころは似たようなものなのだろう。
 ナンセンスの領域に関しては向き不向き合う合わないがあるが、それでも多くの人々にこの作品が愛されるのには、偏にキャラクター性の高さにあると言える。主人公のアリスを筆頭に白ウサギやチェシャ猫、いかれ帽子屋、ハートの女王などキャラクター的にもビジュアル的にも鮮烈なキャラクターがたくさん登場する。『ラブライブ!』や『ハートの国のアリス』、『幸福グラフィティ』のOPや『SHUFFLE!』のEDなど様々な作品でモチーフとなったり、パロディの対象となったりすることから、登場人物のキャラクター性もまた、『ふしぎの国のアリス』の魅力であることは疑い得ない。今年のハロウィンでもアリスの仮装をした者は少なくないだろう。
 ストーリーに関しては伏線やどんでん返しの類はない。この物語はアリスのモデルとなった実在したアリスとアリスの姉妹を楽しませることを主眼においたものなので、エンターテイメント性の方向が一般とは異なるのだ。だから「夢オチ」も許される。
 世界観は言うことなしに素晴らしい。奇想天外かつ摩訶不思議で更に魅力的である。また空想的かつ独創的であるように見えるものの現実に即したものもあり、アリスの大きさが変わるシーンなどは、作者であるキャロル自身も患っていた懼れのある、後に『不思議の国のアリス症候群』と呼ばれる症状に由来しているという。この症状に関しては自分も経験がある。一番記憶に残っているのは高校時代に教師に説教された際に教師の像が非常に遠くに感じられたことだ。大抵、対話する相手と緊張した時に発生していた気がする。キャロルは大人になっても症状を覚えていたのか、それとも比較的頻繁に症状が出ていたのかは不明だが、後者だとしたらなかなか辛い人生だったと思う。キャロルは他にも吃音のハンディキャップがあり、運動も苦手。勉強は非常にできたそうだが、一般人に比べ、お世辞にも順風満帆な人生とは言えなかっただろう。だからこそのアリスなのかも知れないけれど。
 テーマはナンセンス。訳の分からない会話の多くはこのテーマに由来する。だがこの訳の分からなさに付き合えるのは子ども特有だ。大人になれば大抵「関わらない方が良い」と自己防衛本能が働く。大した自分でもないのに。――というのは冗談で、物語が「夢の中の世界」を舞台としている以上、訳の分からない会話にも妙なリアリティがある。実際にこんな夢を見たことはないが、「1+1=3」が真理となっている世界の夢を見たことがある。
 文章はナンセンスの詩や原文の言語のセンスなども含め考えると、非常に高い。だが喩えは悪いがキャロルは英国の西尾維新のようなものなので、翻訳するとどうしても面白味が減ってしまう。そういう意味では文章はどの国でも通じるとは言えない。これはどんな小説であれ抱える問題ではあるのだけれど。
 台詞は前述の通り訳が分からない。訳が分からないが偶に真理を突いたことを言う。そういう点では子どもの発言と似ている。
 総合的見て、普遍的に愛されるファンタジーに相応しいクオリティだった。珍妙な世界を形成しつつも、どこか「こんなことあったな」と人生の記憶を思い出させるノスタルジィがある。エンターテイメントというよりも文学に位置する作品だが、キャラクター性によって不朽の人気を築くなど、娯楽としての価値も高い。

キャラクター:☆☆☆☆☆
ストーリー :☆☆
世界観   :☆☆☆☆☆
テーマ   :☆☆☆☆☆
文章    :☆☆☆☆
台詞    :☆☆☆☆☆

レビュー投稿日
2015年11月4日
読了日
2015年11月4日
本棚登録日
2015年7月24日
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