大岡信の文学史的評論である。祝祭性や集団性と、その対極にあるかのような個人的創作とが日本文学の中では調和していたことを述べる。さまざまな具体例を引用し、論評を加えつつもその切り口は自ら詩を作る創作者としての立場が貫かれている。文学を研究の対象とする学者とはかなり扱い方が違うと感じた。
文学が個人の創作であり、他にはない個性の結晶であるというのは常識的な考えである。しかし、一方で作品は作者の周りの環境の中で作られる。場合によっては創作そのものに他者が介入することもある。日本古典文学では一座の共鳴のもとで作品が作られることも多い。
晩年の大岡信は外国人も含めた詩の共同制作ともいえる連詩という試みをしている。もちろんこれは連句の伝統を応用したものだが、現代文学の中にしかも国際的な文壇のなかにそれを再現したのだ。日本文学の分析にとどまらないところが創作者たるゆえんであると感じた。朝日新聞の折々のうたも原作者と大岡の連詩であると考えればより一層分かりやすくなるような気がしている。
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カテゴリ:
文庫
- 感想投稿日 : 2020年3月19日
- 読了日 : 2020年3月19日
- 本棚登録日 : 2020年3月19日
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