(01)
女流作家による女性に視点を据えた恋愛と植物知識の小説である.主人公の女性の恋愛対象は男性であり,野草の料理(料るという語は初耳であった)(*02)とそのための採取をイベントとして事は進む.
男性も女性もほぼ無害であり,登場したときは有害にみえた主人公女性の同僚男性もほぼ無害であった.植物を取り巻く環境も含め人間社会はとかく有害なものも紛れているものだから,その意味では,無害化された植物的なユートピア世界を本書は創出している.
特に終盤には植物を通して季節の回帰が重要なモチーフとなる.帰るか帰らないか,もとに戻るか戻らないか,日々はめぐるのかめぐらないのか,また帰ってきた世界は以前の世界とどのように異なってしまったのだろうか,という観点で読むのもよいだろう.
(02)
男性は夜に家を出る.女性は昼に家を出る.同棲する二人は朝夕の食事はともに摂り,女性の昼は男性に用意される.料理と食事の主体はともかくとして,共食による二人の結合は清冽なイメージを喚起している.胃にも無害な理想的な食事ともいえるし,ビーガンな思想も連想させる.
清貧ともいえるが貧困ともいえる.彼女ら彼らは栽培せずに採取によりサバイバルをする.土地をもたないし,固定的な資産ももたないように見える.もし本書にわずかでも暴力を読み取ろうとすれば,この野生の収奪にうっすらと感じ取ることができるかもしれない.ささやかに取る事は,所有のない,無産の,あるいは共有のユートピアの現れともいえる.
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年4月9日
- 読了日 : 2019年4月9日
- 本棚登録日 : 2019年1月1日
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