SF作家の藤井太洋氏による、ソフトウェア会社への勤務経験を持つ著者の経験が存分に発揮された、ある意味「お仕事小説」とも言える本著。
「SF」と言うほどには、技術的にも、時間的にも飛躍していないと感じましたが、それでも「アリモノの技術+発想」でここまでの変化を世界にもたらせるんだなぁと思うと、我々は凄い時代に生きているのかもしれません。
本著は5つの短編(中編?)で構成されていて、いずれも主人公は同じITエンジニア。それぞれ独立して読むことも可能ですが、全体を通して読むと主人公の成長を見て取ることもできます。
「オービタル・クラウド」ほどのスケール感ではないのですが、それでも主人公は「ファイヤーマン(火消し)」として世界を股にかけて動いており、編ごとに舞台となる国も違います。著者の作品の中では、比較的気軽に読めると感じました。
本著の5編にに通底していると感じたのは、「技術が社会においてどういう存在であるべきなのか?という問題意識」です。
もはや、ソフトウェア技術者がラップトップを開いてコードを書くだけで、Amazonの荷物配送にも、徴税にも、果ては人の命にも影響を与えてしまう時代な訳です。
そのような中で、ソフトウェアやサービスは、どのような存在であるべきか。本著の主張は「ソフトウェアやサービスは、ごく一部のエンジニアやギークのためのものでも、グローバル企業のためのものでもない」「誰でも使えて、特に弱き者たちを助けるものでないといけない」というコトなのではないかと。当たってるかはわかりませんが…。
私の日々の仕事では、会社内の火消しに追われている毎日ではあるのですが、こういう一段上の発想を忘れちゃいけないよなぁ。。と思った次第です。
ちなみに、最後の「めぐみの雨が降る」の結末の展開は、著者の手掛けるものとしては珍しいなぁと感じたのですが、恋愛要素だったんでしょうか。人類愛のようにも思え、どっちだったのかしらと。
著者の本にはハズレが無いなぁと。引き続き読んでいきたいです。
- 感想投稿日 : 2020年11月14日
- 読了日 : 2020年11月14日
- 本棚登録日 : 2020年11月14日
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