“夏の雨は私たちの心にしっかりと棲みつく―”
自分の知性をひた隠し、無知な一アパート管理人として生きる未亡人ルネ。大人の世界のくだらなさに幻滅し、死を望む少女パロマ。並外れた感性と頭脳を持ちながらも、世間との係わりを拒み内にこもっている二人の前に突如現れた日本人オヅ。彼との触れ合いによって、二人の運命は次第に変化していく。
「無欲だった私は、謎めいた波に揺れる無能なわらしべのよう」ルネ・ミシェル
身分にあった喜びと苦しみの中で、強者は生き弱者は死ぬ。それでもありのままの自分でいることを辞められないのなら、選択肢はふたつ。隠して生きることと隠れて生きることは、紙一重にして正反対。
「わたしも額に運命が書いてあるの?」パロマ・アルサン
ほんの僅かだとしても、今とは違う自分になれる可能性があるのなら。先の見える運命などありはしないんだと、翅の存在を知らない孵化したばかりの蝶のように、飛び立てることを信じていられるでしょう。
「とても開化した閉鎖的な人ですね」オヅ・カクロウ
他人を見ていても、実は自分を見ているだけの人もいます。確実性の向こう側を見たいと望んでいれば、たとえ真の理解者ではなくとも、少しでも相手に通づる部分を見つけ出すための最初の一歩となり得るかもしれません。
交互に描かれる二人の独白で進んで行く本書には、哲学・心理・文学・日本文化など様々な標題の片鱗が含まれており、各登場人物目線のその捉え方がとても個性的。にも関わらず内容は小難しくは無く、脈絡もしっかりしているので最後まで非常に面白く読み通せます。もしかしたらあなたの良く知るあの人も、本当の心をするどい棘の中に隠したハリネズミ?
そんなお話。
- 感想投稿日 : 2016年2月17日
- 読了日 : 2016年2月16日
- 本棚登録日 : 2016年2月16日
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