30年ほど前に全国的にカヌーが流行した時期がある。
アウトドア雑誌はこぞってカヌーを取り上げ、ラーメンのCMではファルトボート(折りたたみカヌー)での川下りの草分け野田知佑氏が愛犬ガクと共にテレビで舟を漕いでいた。
そして、野田氏が訪れていた四万十川はカヌーの聖地となり、今では全国にその名を知られる清流として有名になった。
その、四万十川中流域にある口屋内に住んでいた野村のおんちゃんこと野村春松さんの川と共に暮らした人生の聴き語り。
口屋内に生まれた野村のおんちゃんは、兵隊から戻ってからも四万十川に住み続け、川と暮らしていた。
野村のおんちゃんの趣味は、上流から川を下って来る若者を捕まえ、自分の家に連れていき、風呂に入れ、ご飯を食べさせ、さらには家の前に小屋まで作り泊めてしまうこと。
そんな風に、気さくに付き合ってくれる野村のおんちゃんに惹かれ、四万十川に
魅せられてしまった者は多い。
私もその中の一人で、夏休みの終わった誰もいない河原にテントを張っていたら、「あんたか、川におったのは」と声をかけていただき、お風呂に入れていただき、詩吟の会から帰ってきたおばさんの土産のお寿司を御馳走になり、小屋に泊めていただいた。
そのとき話してくれたのも、山では一つの仕事だけしてるいるのではなく、季節季節によって山仕事をしたり、川で漁をしたり、畑の仕事をしたりしてくらしていくんだ。
日本人が一つだけの仕事で生活するようになったのは、最近のことなんだというようなこと。
そんな、日本人の暮らし、山里の暮らし、そして四万十川の暮らしのことが全編にわたって綴られている。
いまはもう、野村のおんちゃんも奥さんも、そして近所に住まれていたお姉さんも当然いなくなってしまった四万十川。
日本人が山里で生きてきた姿を知る上でも、とても大事な一冊だと思う。
たまたま、最近四万十川のことを耳にし、読み直してみました。
- 感想投稿日 : 2017年8月24日
- 読了日 : 2017年8月23日
- 本棚登録日 : 2017年8月23日
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