図南の翼 (となんのつばさ) 十二国記 6 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2013年9月28日発売)
4.57
  • (994)
  • (435)
  • (98)
  • (3)
  • (3)
本棚登録 : 5966
感想 : 436

「子供らしい」「女の子らしい」わがままさを持つキャラクターがどうしても苦手で、どんなに他が良くても途中で読むのを断念したりという事もよくあるのだけど、十二国記には案外そういう子が出てくる。『風の万里〜』の鈴しかり祥瓊しかり、そしてこの『図南の翼』の珠晶しかり。
十二国記の凄い所は、そんな子達が出てきて、そりゃもう途中何度も読むのをやめたくなる程わがままで図々しくて無知で、でもそれが現実だということをビシビシ読み手に突き付けながらもぐいぐい最後まで読ませてくる。そして結果的にお説教じみた改心やお涙頂戴で濁すのではなく、自然にそれぞれが成長し、自然にキャラクター自身が強くなって、読了後には大好きになっているのが凄い。

要は「強い女の子」が好きなのだけど、「強いと見せかけで実は弱い(それが俗に言う「女の子らしい」と定義され肯定されているような)女の子」は苦手(笑)。
見かけや行動が男の子っぽいという事ではなく、芯の強さ。芯の強さは成長によって育まれていくということを、十二国記は何度も見せてくれる。どんなに救いようが無いように見えても、現実をしっかりと見据え、自ら考え行動し打破していく事で、人はいくらでも成長していく事が出来る。成長する事でその子が全く変わってしまう訳ではなく、考え方や行動の裏付けがしっかりするという事だけで、同じような勝ち気さや大胆な行動も印象は全く変わる。

あくまで主題はファンタジーであり、冒険譚や活劇であり、大きな時の流れを感じさせる歴史絵巻だという事がまた良い。
その中でごく自然に、人が人として成長する事の素晴らしさを、いやらしくなく描く。単純に「人間って素晴らしい」なんて言わず、人間の残酷でドス黒い部分も抉り出し、その中で「最初からできた人」でも「改心する」わけでもなく「ごくありふれたある程度の善人」が、気付き行動出来るかどうかで成長できるかどうかが決まる。それは一度きりのチャンスではなく、誰にでも何度でも機会はある。

早いに越した事は無いけれど、人が成長する事に遅すぎる事は無いし、成長する事に限界はない。十二国記シリーズがこんなにも幅広い世代に読まれ、愛され、そして読んで欲しいと思うのはこういったことが所以かも。
それでもまずは純粋にファンタジーとしてのドキドキワクワクを楽しんでもらいたいのが第一ではある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年11月18日
読了日 : 2013年11月3日
本棚登録日 : 2013年9月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする