東北ショック・ドクトリン

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  • 岩波書店 (2015年3月6日発売)
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東北の被災地は実験場にされている。特に宮城県がひどい。
まずは東北メディカル・メガバンク。病気になる遺伝子を特定して予防する先制医療に応用するため、ただの健康診断に見せかけて被災者の遺伝子バンクを作っている。高度な個人情報の扱い方がまだ決まっていないのに、完全に見切り発車だ。復興予算をとにかく使うことしか考えていない証拠で、被災者の心情など眼中にない。
次に水産特区。こちらも村井県知事の見切り発車で壊滅的な打撃を受けた漁民を分断するかのように企業を誘致しようとした。海は利害が衝突し、ただでさえ紛争が起きやすいのに、漁業権を取り上げることしか考えていない。村井知事は安倍首相とやり方が似ている。どんなに良い政策でも「いいことだからやれ」では独裁である。村井知事は一年間「いいことなんだから」と言うばかりで、具体的に説明してこなかった。もし説明して論点がはっきりすれば問題点を指摘され、早い時期に潰されていた可能性もある。だからしゃべらず、法律ができてしまえば勝手に動き出すと思っている。
次に仙台空港。周りはまだ何もない空き地ばかりのところである。空港の民営化は成功例が少なく、航空先進国のアメリカではほとんど民営化されていない現実がある。被災地での「創造的復興」は、大企業が儲けるためにある。本来経済活動というものは、人の感情、歴史、気候風土、文化すべてを合わせて成り立っているものだ。
次はカジノ。日本にはギャンブル依存症の人が536万人もいると、2014年8月に厚労省が発表した。人口の5%ほどで、先進国の1%ほどに比べると高い。これまでカジノ解禁が進まなかったのは、賭博には多大な負の側面があるからで、治安の悪化、マネーロンダリング、反社会勢力との関連、青少年育成への影響、とりわけ深刻なのがギャンブル依存症の発生である。「先進国でカジノがないのは日本くらい」といわれるが、全世界のゲーミングマシンの6割が日本にある。ダントツの世界一だ。日本はパチンコがあるからカジノがないのである。
最後はイオン。一日中イオンで過ごす人のことを「イオニスト」というらしい。シオニストを思い出させる嫌なネーミングだ。福島県では特定大型店の出店がしにくい「商業まちづくり条例」があったが、復興の名の下に骨抜きにされそうだ。条例を作った当時の県知事である佐藤栄佐久が、国策捜査の末に「収賄0円」で有罪判決を受けたのは、第一次安倍政権が掲げた道州制への反対、プルサーマルへの反対、そしてまちづくり条例など国の方針や大企業の利益に反する施策を次々に打出していたことが背景にあるといわれる。
大資本に頼ったまちづくりの危うさは、三重県の亀山や岐阜県の美濃加茂をみれば分かる。亀山は従業員が増えるといわれたが、実際は派遣労働者が増えただけ。地主が派遣社員を当て込んでウィークリーマンションを次々建てたが、今はどこも空き室だらけ。美濃加茂も富士通が去り、日立が去り、最後はソニーがいなくなった。企業は都合が悪くなればサッと撤退する。だがメディアはこの危うさを伝えない。大企業は大スポンサーでもあるからだ。
ずっと搾取され続けてきた東北は、甚大な被害を受けたあとも、あとだからこそ一層搾取の対象になってしまっているのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年9月26日
読了日 : 2015年9月26日
本棚登録日 : 2015年9月26日

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